車載製品の開発や改良を行う際、ドライバーに危険が生じることなく、実際の運転状況をどのように再現しているのでしょうか。本寄稿では、ドイツ、デトロイト、中国に拠点を持つ研究開発のグローバルチーム、Cerence DRIVEラボの取り組み、またCerence(セレンス)が自動車メーカーに提供する最先端のユーザーエクスペリエンス(UX)デザインの一端を前後編にわたってご紹介します。
DRIVEラボチームは、研究開発や製品の各部門と常に連携を図り、多くの知見が最終製品に反映され、実用的かつ実践的なアプリケーション開発を担っています。外界の視認性の向上を通じて、セレンス全社の製品開発の加速化、ユーザーからのフィードバックの早期実現に直接的、間接的に寄与しています。
DRIVEラボチームの仕事は、新製品のラピッドプロトタイプの作成や製品展示、ユーザーからのフィードバック収集など多岐におよびます。プロアクティブAIをドライビングシミュレーターに適用することもチームの仕事の1つであり、実際の運転環境をドライビングシミュレーターに構築するにはDRIVEラボチームのスキルと最先端の技術が必要不可欠です。
仮想環境と運転シミュレーション
セレンスのドライビングシミュレーターには、Unityエンジンで作成された物理的な運転シミュレーターと車を自由に運転できる仮想環境がセットアップされています。
もとはゲーム用に開発されたこのエンジンは、現在、バーチャルプロダクト・コンフィギュレーターやデジタルツインから、バーチャルリアリティでのメタバースの構築まで、様々なリアルタイム3Dアプリケーションに広く使用されています。
今回、Unityエンジンでマンハッタンのセクション(88番街から93番街まで、およびセントラルパークアベニューからブロードウェイまで)の道路を仮想環境に作成しました。仮想環境は、交通量が多く状況把握が難しい都市環境を正確に表す理想的な方法です。これに外部のナビゲーションソリューションを統合し、バーチャルカーの「実際の」GPS位置をナビゲーションソフトウェアに送信できます。
また、仮想の建物、樹木、車、信号機、道路標識などの交通シミュレーションも追加して仮想都市をより現実味のあるものにしました。この環境には、様々な交通状況、複数の交差点、一方通行、複数車線の道路が含まれており、単にマンハッタンを再現しただけでなく、製品の機能評価や展示ができる様に、充電ステーションや地下駐車場などのインタラクティブな要素も追加しました。
既製のモジュールを活用できず、独自のソリューションを開発しなければならない場合は、セレンスのDRIVEラボチームの3Dコンテンツの生成やソフトウェア開発など、広範なスキルと専門知識を駆使します。独自ソリューションの1つとして、仮想環境の制御に必要な環境をリアルタイムに変更できるリモートコントローラーを開発しました。コントローラーのボタンを押すだけで、晴天から吹雪に変わったり、車のバッテリーを消耗させたり、ドライバーにメッセージを表示したり、車を別の場所にも移動できます。
柔軟なネットワークアーキテクチャでのセンサーとコンポーネントの統合
前述の制御を実現するには、シミュレーターの各コンポーネントが相互に通信する必要があります。リモートコントローラーは、他のコンポーネントと同様にMQTT(Message Queueing Telemetry Transport)を介して接続されます。
MQTTは中央ブローカーによって管理されるマシン間通信用のネットワークプロトコルで、送信者と受信者はお互いを知る必要がありません。送信コンポーネントはデータを公開するだけで、その特定のトピックにサブスクライバー登録したすべての受信者にデータが配信されます。これにより、あらゆる種類のデバイスをシステム全体に非常に迅速かつ簡単に統合または交換することが可能になります。ドライバーの気持ちを盛り上げたい時は、簡単にLED点灯パーツのRGB-LEDストリップを追加したり、手で指示を出したい時はジェスチャーコントロールを追加できます。
ハンドルとペダル、自然言語理解用のマイク、ドライバーの視線を追跡するアイトラッカー、ドライバー監視用のカメラに搭載された当社のセンサーに加えて、ダッシュボードとナビゲーションタブレットもMQTTを介して運転シミュレーションに接続されます。タブレットにナビゲーションの指示を表示するために、仮想車のGPS位置を受信するアプリケーションをインストールすれば、複数の地図プロバイダーのナビゲーションソフトウェアでナビゲーションを開始します。
ドライバーとやり取りする上でダッシュボードはドライビングシミュレーターの最も重要なコンポーネントの1つで、速度やバッテリー残量などの車両の運転関連データ、時刻や天気などのその他の関連情報、音楽プレーヤーによるインフォテインメント、運転に関する通知を表示します。
これらの情報はテキストでも表示できますが、仮想アバターがドライバーに話しかけるように設定できます。このダッシュボードは、DRIVEラボチームによって考案、設計、開発されました。このチームの開発体制によって、今日求められるドライバーと車両のインタフェース開発により柔軟に取り組むことができます。
強力なUXチームによるドライビングシミュレーターの新展開
後編では、ドライビングシミュレーターのソフトウェアとハードウェアについて下記3つのカスタマイズ事例をご紹介します。
- 仮想現実上に実際の運転体験を構築
- 新製品およびコンポーネントのラピッドプロトタイピング
- 実環境とそっくりな仮想環境でのユーザー調査
(後編に続く)
著者プロフィール
ガブリエル・ハース(Gabriel Haas)Cerence
シニアユーザーエクスペリエンス プロジェクトマネージャー
ドイツ・ウルムのCerence DRIVEラボにてチームを統率