真核生物のDNAの巻き取り構造「ヌクレオソーム」が、転写の際にいったんほどかれ、その後に巻き直されて復活する仕組みが分かった。タンパク質の設計図であるメッセンジャーRNA(mRNA)を合成する酵素「RNAポリメラーゼ2(RNAP2)」が担っていた。理化学研究所と東京大学の研究グループが発表した。遺伝子の発現と巻き取り構造の維持をどう両立しているかという、生物学の基本的な謎を解明した。

生物の設計図であるゲノム(全遺伝情報)を担うDNAは、長いひも状で、真核生物では糸巻き状のタンパク質「ヒストン」に巻き取られヌクレオソームを形成。これが数珠状に多数連なり「クロマチン構造」となって、細胞の核にコンパクトに収められている。DNAの情報が転写されてRNAができ、これが翻訳されてタンパク質となり、さまざまな酵素や生理活性物質となる。この転写の際、はさみの形をしたRNAP2がヌクレオソームの巻き取りをほどくが、その後、どんな仕組みできちんと巻き直されているのかは謎だった。

そこで研究グループは「クライオ電子顕微鏡法」を用いて、RNAP2がヌクレオソームを通過していく過程をコマ撮りして観察した。クライオ電子顕微鏡法は生体試料を生のまま凍らせ、生きた状態に近い条件で観察する手法。開発者3人が2017年にノーベル化学賞を受賞している。

観察の結果、RNAP2は転写を助けるさまざまなタンパク質と結合し、複合体を形成。これがヌクレオソームに入り、DNAをヒストンから徐々にほどいて解体していった。ヌクレオソームの中央を通過すると、ヒストンを転写が終わったDNAの方へと移し、ヌクレオソームを組み立て直していることを突き止めた。

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    RNAP2はさまざまなタンパク質と結合して複合体(EC)を形成。転写の際、ヌクレオソームはRNAP2によっていったん、ほどかれる。「ヒストンシャペロン」の「ファクト(FACT)」はヒストンの介添え役(理化学研究所提供)

この過程で、2種類のタンパク質できた「ファクト(FACT)」が、DNAからはがされたヒストンが離れていかないよう、つなぎ止めていた。さまざまなタンパク質がヌクレオソームの再形成を支えていることが分かった。

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    RNAP2とタンパク質の複合体(EC)が、ヌクレオソームの中央を通過する過程で、ヌクレオソームの解体と再形成が起こっている(理研提供)

研究グループの東京大学定量生命科学研究所の胡桃坂仁志教授(構造生物学)は会見で「ヌクレオソームを壊して作るところまでを全部示し、研究の競争相手をはるかに凌駕(りょうが)する成果となった。ファクトがまるでクレーンのように、しかも高速に、ヒストンを吊り上げ、下して運んでおり驚いた」と述べた。理化学研究所生命機能科学研究センターの関根俊一チームリーダー(同)は「転写の制御が破綻して起こる疾患の解明にもつながる」とした。

成果は米科学誌「サイエンス」の電子版に8月19日に掲載された。研究は日本学術振興会科学研究費助成事業、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業、日本医療研究開発機構(AMED)創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業、同生命科学・創薬研究支援基盤事業、住友財団基礎科学研究助成の支援を受けた。

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