新型コロナで一気に進んだオンラインコミュニケーション。ビジネスチャット、オンライン会議などが当たり前になって久しいという方も多いだろう。だが、ブレインストーミングとなると、対面に軍配が上がるようだ。Dropboxの公式ブログの記事「Why science says brainstorming works better in person」を紹介したい。
ブレストは対面の方がいいーー感覚的に同意できるという人は多いだろう。コミュニケーションは多くの場合対面の方が伝わるものだ。それでも、Dropboxチームはその感覚を裏付ける科学的なものを探した。そこで紹介しているのが、スタンフォード大学経営大学院のマーケティング教授、Jonathan Levav氏とコロンビアビジネススクールのマーケティング学Melanie Brucks助教授の共同研究だ。両氏は、1-1のコラボレーションにおいて、バーチャルコミュニケーションがアイデアジェネレーション(アイデア出し)に与える影響を調べている。なんでも、両氏は新型コロナ拡大以前から、アイデア出しや製品開発とコラボレーションとの関係を研究しているそうだ。
記事では、両氏の研究のポイントをいくつか紹介している。その中から3つを見てみよう。
1.画面を見つめることはアイデア出しにはよくない?
バーチャルでコミュニケーションしている時、人は唯一の共有環境である画面を見つめる。調査によると、この動作がメンタル面での集中力を多く奪ってしまうため、クリエイティブなアイデア出しの妨げになっている、という。
それ以前の研究では、目の焦点がどこにあるのかと頭の中のアイデアの結びつきには関係があることがうかがえたことから、視線計測を行った。結果、相手に注意を払っていることを示すために視線を画面に集中させると、脳内でさまざまな概念を結びつける働きをする部分へのアクセスが難しくなっていることがわかったと報告している。合わせて、対面では目による合図で次に誰が話すのかが無言で決まっていることもわかったという。
2.仮想か対面かーー心理的距離に違いはあるのか?
驚くべき結果として挙げているのが、仮想環境と対面で、相手に対する心理的距離には大きな変化がなかったということだ。また、ブレストの後のアイデア評価では、バーチャルで行う方が効果があることもわかったという。だが対面の利点としては、バラバラな議論を促すことができるという点も挙げている。また、中断が難しい、クロストークがしにくい、進め方によっては全員が発言できるなどの点もあるだろう。このようなことから、コロナで一旦リモートになった後に職場のあり方を見直すのであれば、どのようなタスクが対面で効果的で、どのようなタスクがそうではないのかなど、それぞれの手段が得意とすることを考慮すべきとアドバイスしている。
3.テクノロジーと人間の進化の速度は異なる
両氏は過去50年のブレストへの研究からわかったこととして、人数が多すぎるとブレストには向かないと述べている。多くの人数が発言することで、かえってまとめにくくなったり会話の方向性が定まりにくいためだ。ある人の発言が他の人の生産を阻害する"生産阻害"(または"発話のブロッキング")と言われるものだ。
記事では最後に、対面がテクノロジーに置き換わることはないという研究者の考えを紹介する。理由は単純で、ムーアの法則のような進化の法則を人間は持っていないため。テクノロジーをコミュニケーションの媒介にすることはできても、生産性、創造性、幸福さなどがテクノロジーと同じように進むと考えることは、「人間であることの意味を完全に無視している」と述べている。
なお、Dropboxではコロナの後、同期と非同期を組み合わせてブレストを行なっているそうだ。対面でのブレストの前に個別にアイデア出しを行い、共同ドキュメント編集機能を使ってトピックをピッチをした後、部屋にいる人全員がフィードバックをしたり異なる角度で意見を述べるという。たしかにブレストが必ずしも同期である必要性は無いかもしれない。Dropbox単体の機能でも可能だろうし、Dropboxとの連携機能もある「miro」のようなブレストを補助するSaaSでは、マインドマップやSCAMPERなどのテンプレートも充実し、それぞれの手法も簡潔なアニメーションヘルプで解説されているので、初心者にも優しい。SaaSを使えば、ブレストの"要(かなめ)"とも言えるアイデア出し自体は進められる。