米ガートナーは8月24日(現地時間)、「デジタル地政学」が多国籍企業のCIO(Chief Information Officer)にとって急速に取り組みを強化すべき課題になっているとの見解を発表した。デジタル地政学とは、デジタル・テクノロジーとサイバースペースの領域における国家(または国家共同体)間の競争を示す用語だ。

国家間の競争が経済、軍事、社会など、さまざまな領域へと波及する中で、各領域においてデジタル・テクノロジーの重要性が増していることから、デジタル地政学は影響力を持つ独自のカテゴリーとして台頭しつつあるという。

CIOは企業のリスク評価のほか、必要な場合には、デジタル・システムの再設計においても中核的な役割を果たさなければならないと同社は提言するとともに、CIOが管理または活用すべきデジタル地政学の4つの側面として、「デジタル主権」「自国のテクノロジ産業」「軍事力」「サイバースペース・ガバナンス」を挙げる。

  • デジタル地政学の4つの側面、出典ガートナージャパン

    デジタル地政学の4つの側面、出典ガートナージャパン

デジタル主権を守るために、CIOはIT組織のオペレーティング・モデルとプラクティスが、現行の法規制を確実に反映するよう、積極的に取り組む必要がある。その際のCIOの役割は、法的環境を意識し、IT組織が企業全体のコンプライアンスをどのようにサポートしているかについて、他の経営幹部に明確に説明することだという。

一方で、サイバースペース・ガバナンスの主導権を巡る各国政府の思惑は、CIOの影響力がおよぶ範囲を超えてるものとなる。しかし、同社は、企業がグローバルで事業を展開するビジネス能力に重大な影響をおよぼすと指摘する。CIOがサイバースペース環境に関する最新情報のブリーフィングを企業内で毎年実施することで、サイバースペースの主導権を巡る国家間競争および企業の業務運営への影響について経営幹部の理解を深めることができるという。

ガートナージャパン アナリスト バイス プレジデント 兼 ガートナー フェローの藤原恒夫氏は、「日本では、2022年5月に経済安全保障推進法案が成立し、2023年には政策拡充に向けた法改正が施行される。ロシアのウクライナ侵攻から半年が経ち、多国籍企業では、加速度的に分断が深まっているのを実感していることだろう。企業は、友好国のITサプライヤーの検討、IT知財の本国での特許出願の見直し、そしてサイバー攻撃対策の強化について、今すぐにでも議論を開始すべきだ」と指摘する。