食中毒の原因の細菌を、金属と高分子の粒子が結合した複合体を使って検出する新たな手法を開発したと、大阪公立大学の研究グループが発表した。固有の色の光を散乱する複合体の表面に、細菌の抗体を着けたもの。従来法より素早くでき、しかもさまざまな細菌を同時に見分けられる。大がかりな装置が不要で、簡易な検査に道を開くという。

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    さまざまな金属と高分子の粒子が結合した複合体に光を当て、散乱する固有の色の光。複合体に抗体を着け、細菌を検出することに成功した(大阪公立大学提供)

食品や医療、環境分野などの細菌検査では、培養したり、蛍光物質を目印に使ったりして検出する。ただし培養には2日間といった時間がかかる。また蛍光物質は寿命が短い、物質により当てる光の波長を変える必要があるなどの制約があり、さまざまな菌を同時に識別するのが難しいという。

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    複合体の電子顕微鏡写真(左)と、構造の模式図。ポリマーは高分子(大阪公立大学提供)

そこで研究グループは新たな検出手法の開発に挑んだ。まず、金属のナノ粒子(1~100ナノメートル程度の大きさの粒子、ナノは10億分の1)と高分子が化学結合した複合体が、同じサイズの金のナノ粒子に比べて強い光を散乱することを突き止めた。これは多数の金属ナノ粒子が高分子によって分け隔てられつつ、高密度に存在することで、光の吸収や散乱が効率的に起こるための現象という。

さらに金、銀、銅のナノ粒子と高分子の粒子が結合した複合体に光を当てると、それぞれ白、赤、青の散乱光を出した。そこで複合体の金属の種類ごとに、金は腸管出血性大腸菌O26、銀は同O157、銅は黄色ブドウ球菌、それぞれの抗体を表面に付着させた目印を作製。これらが細菌を検出できるかを調べた。

その結果、O26では白、O157は赤、黄色ブドウ球菌は青の散乱光をそれぞれ確認し、検出に成功した。複合体は抗体がなくても固有の光を散乱するが、それだけでは明るさが足りない。しかし表面に着いた抗体が細菌に結び付くことで複合体が集団になり、散乱光が強くなって検出できる仕組み。所要1時間以内という。

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    複合体が抗体部分を介して、細菌に集まる様子の模式図(大阪公立大学提供)

複数の種類の菌を含む腐敗した肉に3種類の細菌を加えたところ、この手法で3種類を同時に識別できた。

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    散乱光の色の違いにより、複数の細菌を同時に識別できた(大阪公立大学提供)

金属と抗体の組み合わせはさまざまに変えられるといい、新たな検査手法として実用化が期待される。研究グループの大阪公立大学大学院工学研究科の椎木(しいぎ)弘教授(分析化学)は「食品や医療、創薬、公衆衛生など、さまざまな用途で事業所レベルでの自主管理が可能になる。多彩な標的に対応する複合体や小さな検査デバイスの開発などを進めたい」と述べている。

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    散乱光の色の違いにより、複数の細菌を同時に識別できた(大阪公立大学提供)

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