東京大学(東大)は8月19日、磁化をほとんど持たないにもかかわらず、室温で巨大な異常ホール効果を示す、マンガンとスズからなる反強磁性体「Mn3Sn」において、一軸性の歪み(ひずみ)によって異常ホール効果の符号が制御可能であることを実証したと発表した。

同成果は、東大大学院 理学系研究科 物理学専攻のムハンマド・イクラス特任研究員、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学 物理学・天文学専攻のサヤック・ダスグプタ特任研究員、米・コーネル大学 物理学専攻のフローリアン・セイス大学院生、東大大学院 理学系研究科 物理学専攻の肥後友也特任准教授(東大 物性研究所(ISSP) 量子物質研究グループ リサーチフェロー兼任)、中央大学 理工学部 物理学科の橘高俊一郎准教授、コーネル大学 物理学専攻のブラッド・ラムシャウ助教、米・ジョンズホプキンス大学 物理学・天文学専攻のオレグ・チェルニショフ教授、英・バーミンガム大学 物理学・天文学専攻のクリフォード・ヒックス グループリーダー、東大大学院 理学系研究科 物理学専攻の中辻知教授(東大 ISSP 量子物質研究グループ 特任教授/東大トランススケール量子科学国際連携研究機構 機構長兼任)らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の物理学全般を扱う学術誌「Nature Physics」に掲載された。

MRAMのさらなる高速化や高密度化を実現する研究開発指針の1つとして、現在は強磁性体が利用されているが、それを反強磁性体で代替することが検討されている。その理由の1つは、反強磁性体では情報の記憶速度が、強磁性体の100~1000倍のピコ秒台になることが期待されているためだという。

また、スピンが互いの磁化を打ち消し合う配置になり正味の磁化を持たないため、従来より100倍速い演算が可能かつ高密度なMRAMが原理上実現可能であることも理由とされている。

しかし反強磁性体を用いるためには、「0」と「1」の情報に対応する電気的信号を検出・制御する技術の開発が必要とされていた。

反強磁性体では、異常ホール効果や異常ネルンスト効果、磁気光学カー効果などの読み出し信号を、これまで検出が困難だと考えられてきたが、Mn3Snを用いて室温で検出できることを実証してきたのが研究チームだという。これらの信号が得られる理由は、ノンコリニア(非共線)反強磁性スピン構造を示すMn3Snが、磁極に類似した拡張磁気八極子偏極を持つためだとされている。