NTTドコモは2020年8月、電通などとともにデータクリーンルームサービスとして「docomo data square(ドコモデータスクエア)」の提供を開始すると発表した。

同サービスは、ドコモが保有する位置情報データやdポイント会員データ、電通グループが保有するテレビ・デジタルなどのメディア接触データ、LIVE BOARDが配信可能なデジタルOOH(OUT of Home)の配信ログ、およびD2Cの広告配信ログを、ドコモが保有する基盤で統合することで、ID単位をキーとしたデータベース分析が可能になる。

最近、3rd Party Cookieが規制される中で、データクリーンルームが注目されつつある。そこで、発表から2年が経過した「docomo data square」の現状と今後の戦略をスマートライフカンパニー マーケティングイノベーション部 プロダクト推進 担当課長 吉田岳人氏と、主査 加藤翔氏に聞いた。

(以下、敬称略)

データクリーンルームとは、どのようなものでしょうか?

,NTTドコモ 主査 スマートライフカンパニー マーケティングイノベーション部 プロダクト推進 加藤翔氏

NTTドコモ 主査 スマートライフカンパニー マーケティングイノベーション部 プロダクト推進 加藤翔氏

加藤:明確な定義があるわけではないのですが、プラットフォーマーであるドコモなどのデータとクライアント様のデータをプライバシーが保全されている環境下で統合し、分析ができる仕組みだと捉えています。クリーンの意味は、取り扱うデータがお客様の利用許諾が取れているというゼロパーティーデータである点と、個人を特定できないデータを利用して分析し、分析結果がIDベースで取り出せず、統計化されている点だと思っています。

docomo data squareの場合も、お客様の同意をしっかり得た上でデータを利用しており、クライアント様のデータも同意が得られたことを前提に個人を識別できるID(cookieやMAID)が見えない環境で、両社のデータを集計、分析しています。

これにより、お客様のデータがお客様の同意の範囲を超えて他のデータと結合したり 過度に詳細なパーソナル分析がなされることなくクライアント様に必要なマーケティングサービスを提供しています。

また弊社では、パーソナルデータダッシュボードを提供し、お客様へのデータ利用の説明や利用データの設定など透明性を高めながらお客様の意思に基づく利用を進めています。

docomo data squareは、どのような用途で使われるケースが多いのでしょうか?

加藤:クライアント様からどういった分析を行いたいのかをヒアリングさせていただき、ドコモが保有するどのデータでKPIやKGI(Key Goal Indicator)を可視化するのかをお話します。そして、それに必要なデータだけをクライアント様専用の環境に用意して分析を行います。

クライアント様からの要求は、アプリのダウンロードが増えているのかを知りたいといった漠然したものもありますので、どういうデータを利用して分析し、どういうKPIを可視化するのかという提案をこちらからさせていただき、話し合いを重ねながら分析し、報告しています。

docomo data squareの実際の利用方法は?

加藤:まず、クライアントからどういった分析を行いたいのかをヒアリングさせていただき、ドコモのどのデータでKPIやKGI(Key Goal Indicator)を可視化するのかをお話します。そして、それに必要なデータだけをクライアントさん専用の環境に用意するということになります。

NTTドコモ スマートライフカンパニー マーケティングイノベーション部 プロダクト推進 担当課長 吉田岳人氏

NTTドコモ スマートライフカンパニー マーケティングイノベーション部 プロダクト推進 担当課長 吉田 岳人氏

クライアントさんからの要求は、アプリのダウンロードが増えているのかを知りたいといった漠然したものもありますので、どういうデータを分析して、どういうKPIを可視化するのかという提案をこちらからさせていただき、話し合いながらわれわれが分析し、報告しています。

吉田:メーカー様は、自分たちの製品がどんな人に使われているのかを知ることに苦労されています。われわれは、dポイントやd払いのデータによって、お客様のリアルな行動がわかりますので、メーカー様が欲しているユーザーのプロファイルやペルソナを提供することができます。

docomo data squareの他のデータクリーンルームと異なる特徴は?

加藤: 特徴は5つあります。

1つ目は9000万人以上いるdポイントの会員のデータを使った分析できるというデータ量が多い点です。

2つ目はWebのデータと違って、キャリアならではのお客様データ(年齢や性別など)の正確性、データの質が高い点です。

3つ目はお客様のサービス加入情報やアンケート情報、dポイント、d払い、dカードなど決済情報、キャリアならではの位置情報など、データの種類が豊富なため、クライアント様のニーズに合わせた分析ができる点です。

4つ目はデータの利用目的に対して許諾が得られたデータ(ゼロパーティーデータ)を利用している点です。お客様1人1人の許諾状況はパーソナルダッシュボードで確認できるようになっています。

5つ目は端末IDやCookieなどに依存せず、ドコモ固有のIDでお客様情報を管理できているという点です。

docomo data squareは、電通様のテレビ視聴データやLIVE BOARDの屋外広告の情報を連携することで、メディア横断で効果がわかるということも他社にはない特徴だと思います。

電通と組んだ理由は?

加藤:データクリーンルームに関して、先進的に取り組まれていたのが電通さんであり、深い知見をお持ちであったことから、電通さんと最初に組ませていただきました。また、クライアント様のご要望として、テレビ、Webなどメディアを横断して複合的に分析したいという要望があります。電通さんは、テレビの視聴データを保有されており、分析経験も豊富なことから電通様と取り組みを開始させて頂きました。

GoogleやYahoo!などの巨大なプラットフォーマーにどう対抗していきますか?

加藤:どういうデータが揃っているかが、データクリーンルームにおける重要なファクターになっており、dポイントやd払いの加盟店様と連携しながら、実際に何を買ったのかという粒度で可視化できることを目指して、強化しています。とくに、オンラインだけでなく、オフラインデータも集めていることが差別化のポイントの1つだと思います。 dポイントに魅力を感じているクライアント様も多くおられるため、dポイントをセットにしたキャンペーンなど、ポイントをフックにした施策を実施していきたいと思います。 また、広告配信の結果を可視化するだけではなく、クライアント様データを活用したCRMも含めたフルファネルでの効果の可視化を推進していきたいと思っています。

吉田:弊社の強みは携帯事業をやっている通信キャリアである点です。その土台は、どこにお客様がいてもつながるということで、もちろん、許諾を得た上でということが前提になりますが、お客様がどこにいるのかということを知っているということにほかなりません。リアルな行動は、時間やお金を掛けて行動したいという感情によって行われています。これは、気軽に行うネットサーフィンによる情報よりも、大きな熱量をもったお客様の行動を捉えることができます。さらに、dポイントやd払いなどにより、リアルな購買情報を捉えることができるというのも強みだと思います。位置情報というのは、通信事業をやっているわれわれに一日の長があると思っています。

現在のデータクリーンルームの市場をどう捉えていますか?

加藤:docomo data squareを発表した2年前よりもデータクリーンルームという言葉自体を耳にする機会が増え、個人情報保護法の改正などもあり、データに対するクライアント様の意識も変わってきていると思います。しかし、まだまだ立ち上げ期(アーリーアダプター中心)であることは感じています。データの許諾がどういう風に取られているのかという部分は、個人や企業の独自判断によることが多いので、このあたりを啓蒙していく必要性は感じています。

また、Google様はシステマチックに利用環境が用意され、利用できるようになっていますが、国内にはそこまでできる企業は少ないと思います。そういう意味で、利用しやすい環境を整えていくということは、課題の1つだと思います。

吉田:データクリーンルームに対してわれわれが興味をもった背景には、屋外広告を電子化したDOOH(Digital Out of Home)の存在があります。以前は、天気や時間帯などに関係なく、屋外広告の前に人がいなくてもお金をいただくビジネスモデルでしたが、われわれの位置情報を使うことで、誰が見たのかを数値化できます。これは、屋外広告のDXだと考えています。例えば、サッカースタジアムに訪れている人はどういう人なのかを分析したいという要望に対して、われわれの位置情報を使ってお客様像を可視化することができます。こういったご要望も多くなってきています。それによって、ビジネスマンが多い場所に広告を配信したい、旅行者が多い場所に広告を出したいという使い方に関しては、手応えを感じています。