近年、工業プロセスでのマシンビジョンシステムの利用がかなり増えてきました。従来、こうしたシステムは、基本的なパターンを認識するのに使用されており、例えば稼働するベルトコンベアで運ばれている製品を監視することができます。しかし、最近、人工知能(AI)や機械学習(ML)が登場したことにより、マシンビジョンシステムが、産業用アプリケーションにもたらす価値をさらに高めることは確かです。

工業生産ラインで製造される製品は通常、パラメータが明確に定義されているため、想定範囲外の物やイベントを識別するよう事前にプログラムしておくことが可能なマシンビジョンシステムにとって、理想的なアプリケーションといえます。しかし、認識するように設定されているイベントや出来事以外のことをマシンビジョンが管理するのは不可能です。AIやMLを使用すると、この欠点に対処して、マシンビジョンシステムをはるかに付加価値の高い活動に採用できるようになります。例えば、ベルトコンベアがいきなり停止した場合や、生産ラインから物が無くなった場合に、それを簡単に認識することなどです。これによって、マシンビジョンは、複数の垂直市場にまたがる活動をサポートできるようになります。

精度が向上するとコストを削減できるため、これらのアプリケーションで収集された画像データを処理するAIアルゴリズムのホストとして、市販のクラウドプラットフォームの利用が増えています。つまり、AIとMLをマシンビジョンシステムに追加することが簡単になってきているのです。マシンビジョンシステムは必然的に、IoT(および産業用IoT)デバイスの継続的な進化において、重要な役割を果たすことになります。

超低消費電力センシング

多くのアプリケーションには、オンデマンドで画像を迅速にキャプチャし、高いレベルの性能と低消費電力を兼ね備えたアクティブビジョンシステムが必要なので、マシンビジョンシステムの成長にとって超低消費電力センサソリューションを利用できることが不可欠になります。

AI画像をクラウドで処理することで、より小型で電力効率の高いセンサプラットフォームを使用できますが、そのためにはクラウドへの堅牢な高速データ転送リンクが必要です。Bluetooth Low Energy(Bluetooth LE)技術は、こうした接続を実現する上で重要となり、マシンビジョン用センサプラットフォームをIoTゲートウェイ経由でリモートクラウドサービスにワイヤレス接続する簡単な方法を提供します。

このようにして、センサプラットフォームは、画像データ(別の情報)をクラウドプラットフォームに転送して、AIアルゴリズムで処理させることができます。AIアルゴリズムは、(必要に応じて)適切な指令をセンサやスマートアクチュエータに送り返してこれに応答できます。

カラーでの画像キャプチャ

多くのマシンビジョンシステムでは、基本的な物体認識にはモノクロ(白黒)の画像で十分ですが、カラー画像にはより多くの情報が含まれているうえ、多くの新しいアプリケーションでAIを使用したシーン認識に新たな次元を切り拓く可能性を秘めています。

色があるとコントラストが高くなり、シーン内の物体を正確に識別しやすくなるので、AIシステムをフルに活用できます。しかし、カラー画像のキャプチャでは、モノクロの場合より多くの電力が消費されるため、わずか1個のコイン電池で少なくとも5年間は動作することが期待されるバッテリ駆動機器に対しては課題になります。したがって、マシンビジョンシステムでカラー画像を使用する場合、バッテリ寿命を最大化するには、イメージセンサ、制御システム、通信インタフェースのパワーマネジメントが鍵になります。例えばオンセミの「RSL10 Smart Shot Camera(スマートショットカメラ)」は、マシンビジョンシステムで低消費電力での画像キャプチャを可能にするために開発されたプラットフォームで、最新バージョンでは、カラー画像のキャプチャをサポートし、接続のためにBluetooth LE技術を集積し、AIによるイベントトリガイメージングに対応しています。

  • RSL10

    AIによるイベントトリガイメージングに対応した低消費電力カメラプラットフォーム

イベントトリガ型マシンビジョン

イベントトリガ型のマシンビジョンでは、画像データを常にストリーミングするのではなく、あらかじめ定義されたイベントが発生した場合にのみ画像をキャプチャします。

イベントの条件は、カメラプラットフォームに組み込まれた最先端センサを使用して監視されます。これらのセンサを使用して監視できる条件は、動き、温度、時間、湿度、加速度などです。開発者は、これらのセンサの出力を使用し、イベント処理に対する複雑な条件を作成できます。これらのイベントに対する条件が満たされると、カメラは画像キャプチャを開始します。この画像はBluetooth LE技術を使用してスマートフォンやゲートウェイに転送できます。

AI画像解析向けアプリケーション

イベントトリガ型マシンビジョンは、画像データを常にストリーミングする必要がないまたは実行できない多くのアプリケーションで理にかなうものです。そのようなアプリケーションの1つが在庫の監視です。在庫の監視では、イベントトリガカメラを使用して、スーパーマーケットの棚の在庫レベルを監視し、棚に隙間が検出されると自動的に補充アラートを送出できます。このアプリケーションの拡張として、ある通路の特定の棚について一般的な補充アラートを送出する代わりに、クラウドベースのAIアルゴリズムを使用して画像を処理し、補充が必要な商品の種類を正確に特定することもできます。同様に、この手法は家庭環境にも適用でき、キッチンの戸棚や冷蔵庫の物の量を監視し、モバイルショッピングアプリに接続して、自動再注文リストを作成するように設定することも可能です。

  • 画像解析を備えたクラウド接続モバイルアプリ

    画像解析を備えたクラウド接続モバイルアプリ

長期保管スペースは、その性質上、長期間変化がないことが多いため、連続的なビデオ監視には意味がありません。

また、警備員がときどき訪れるだけで、侵入や保管条件が変化するようなイベント(例えば、水漏れや空調の故障)が起きた場合、損失や損傷が検出されないまま、是正措置が取られるまでに許容できない時間が経過する可能性があることになります。こうした例では、環境条件の変化や予期しない動きが検出された場合に、カメラを使用して最新の画像を送ることができれば意味があります。また、別荘の所有者が、自分の物件で同様のイベントが検出された場合に、最新情報を受信したいと考えている場合にも役立つでしょう。警備員など予想される訪問者の顔や記章を認識するように学習させたAIアルゴリズムを使用すれば、さらに誤警報を回避できます。

現在では、スマートデジタルメータを使って、工業プロセスにおける環境変数の状態を監視していますが、古いアナログメータもまだ数え切れないほど使用されています。これらの古いメータは、定期的に人間が読み取る必要があり、想定範囲から逸脱した時点でオペレータが近くにいない限り、検出されないまま放置され、結果としてプロセスがダウンするなど、さらに損害が大きくなるおそれがあります。このような状況では、イベントトリガ型AIカメラを使用して、メータの表示値が予想値を超えて変動した場合はアラームを発出し、表示値の画像をプロセスコントローラ(人間または機械)に送信して、適切な処置を取ることができます。

農業生産者も、いくつかの方法でAIマシンビジョン技術を使用できます。環境条件の監視以外に、さまざまな熟成度を監視する、果物や野菜の病気の有無を(色の違いによって)検出する、温室内の不要な害虫の存在(動き)を認識するといった目的にも使用できます。

  • カラーイメージングを使用したアプリケーション

    カラーイメージングを使用したアプリケーション

まとめ

オンセミのRSL10スマートショットカメラは、接続とカラーおよびモノクロのイメージングをAIベースの処理と組み合わせた設計プラットフォームを提供できます。このプラットフォームは、低消費電力動作が最適化されており、統合クラウドサービスを通じて高度なAIやMLを利用でき、放置したまま10年以上にわたり動作可能なリモートマシンビジョンシステムを開発するのに使用できます。

著者プロフィール

Guy Nicholson
onsemi
Senior Director, Industrial and Commercial Sensing Division