京都大学(京大)は、3次元重力を用いたホログラフィー(ホログラフィック原理)を開発し、それを用いて初期宇宙における密度揺らぎの相関を計算することに成功したと発表した。
同成果は、京大 基礎物理学研究所の疋田泰章 特定准教授、国立台湾大学 物理学系の陳恒楡教授の2名によるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。
現時点で量子効果まで含んだ重力を扱う「量子重力理論」は未完成である。マクロな世界で重力を扱う一般相対性理論と、ミクロな世界で量子の振る舞いなどを扱う量子力学は相性が悪く、なかなか融合させることができないためである。
ただし、期待されている理論もある。その1つが有名な「超弦理論(超ひも理論)」だが、同理論特有の効果は超高温状態でしか現れないため、現在の人類が持つ技術では実験的に検証するのが困難とされている。しかし、初期宇宙ならそうした実験室では不可能な超高温状態を実現可能であり、超弦理論特有の現象を捉えられる可能性があるという。
宇宙初期を調べるのに重要とされているのが、ホログラフィー(ホログラフィック原理)で、難解な量子重力理論をより扱いやすい物質場の理論に変換できるという、画期的な手法とされている。同原理の考え方を用いると、「ドジッター宇宙(時空)」を無限の未来に存在する物質の理論と見なせるようになるという。ドジッター宇宙は、正の宇宙項を持つアインシュタイン方程式の解であり、宇宙の初期に現れる膨張宇宙を近似的に表すものとされている。
ホログラフィー原理はここ20年以上にわたって、量子重力や量子場の理論などにおいて中心的な話題であり続けてきたが、負の宇宙項を持つアインシュタイン方程式の解である、反ドジッター宇宙(ブラックホールの事象の地平面近傍に現れる)での解析が中心であり、ドジッター宇宙に関しては、あまり研究が進展していなかったという。
しかし2022年7月22日に、京大の疋田特定准教授を含む共同研究チームが、世界で初めて3次元ドジッター宇宙によるホログラフィー原理を提唱(ここでいう3次元とは、実際の宇宙は4次元時空なので、時間の1次元を除いたより簡易な宇宙を扱っている)。
今回の研究は7月の研究成果に大きく関わるものであり、それをより精密な理論とすることで、初期宇宙の密度揺らぎの相関を計算できる可能性があるという。膨張宇宙でのホログラフィー原理を開発し、初期宇宙の密度揺らぎの相関を計算することが、今回の研究の目的とされた。