近年の温暖化の影響により世界各地で起きている異常気象に、樹木はどのようにして対処しているのだろうか? また、樹木は異常気象が重なってしまった場合、どのような影響を受けているのだろうか?

そんな疑問に答える研究を今回は紹介しよう。

京都大学の研究グループは、世界遺産である小笠原諸島にて、種子の大量生産後、引き続いて発生した異常気象によって、樹木がどのように衰退・枯死していったのか、その整理過程を研究した。

研究によって種子繁殖によって樹木本体に貯蓄されていたでんぷんをより多く使ってしまった個体ほど、その後に起きた異常気象後の回復が弱く、貯蓄でんぷんも貯められず、糖欠乏の負のスパイラルに陥り、時には枯死にまで至ってしまうことが明らかになった。

詳細は国際学術誌「Global Change Biology」のオンライン版に掲載されている。

近年、地球温暖化による気候変動のため熱波や山火事、干ばつといったさまざまな異常気象が頻発しており、こういった異常気象により、樹木の枯死や森林の衰退が世界各地で報告されている。

また、多くの樹木は子孫を残すための種子繁殖を目的としたマスティング※1を何年かに一度行う。マスティングが起きる年(なり年)には、あまりに多くの種子を生産するため、樹木が弱ることもある。

今後の温暖化により、マスティングと異常気象が連発したり同時に起きてしまった場合、樹木がどのような影響を受けるのか調べることが世界的に重要かつ緊急な課題であるが、未だその全貌は明らかになっていない。

そこで研究チームは、連続して生じる異常気象が樹木にとってどのような影響を及ぼすか調査すべく、世界遺産である小笠原諸島の固有樹種シマイスノキ※2を調査対象とし、2019年のなり年から2020年の乾燥後にかけて、シマイスノキの樹体内に貯蓄されているでんぷん量や、樹木の成長量、校内部での水の通りやすさ、光合成能力などを継続して測定した。

その結果、種子を旺盛に生産した樹木個体ほど貯蓄でんぷん量は少なく、さらに種子の生産量とは関係なく、台風による塩害が大きかった個体ほど貯蓄でんぷん量は少なくなっていた。このように種子の生産量の程度や台風被害によって、樹木個体間で貯蓄でんぷん量に大きなばらつきが生じていた。

またそこからさらに乾燥が続いた場合、校内部の通水機能が低下するが、貯蓄でんぷん量が多かった個体は、一度雨が降ると、枝の通水機能を回復させることができ、貯蓄でんぷん量も回復した。

一方、貯蓄でんぷんの少なかった個体は、枝の通水機能は回復できず、太い枝も枯死し、貯蓄でんぷん量の回復も見られなかった。この中には、翌年枯死してしまう個体も出てきた。

  • 種子生産後、連続して生じた異常気象(大型台風と夏生乾燥)によって枯死してしまった小笠原固有樹種シマイスノキ

    種子生産後、連続して生じた異常気象(大型台風と夏生乾燥)によって枯死してしまった小笠原固有樹種シマイスノキ(出典:京都大学)

これらのことからシマイスノキでは、大量の種子生産や異常気象の頻発は、樹体内の貯蓄でんぷん量を低下させることがわかった。

さらに、貯蓄でんぷん量が低下している時期に重ねて異常気象が起こると、樹木の整理機能の回復を遅らせてしまうといった負のスパイラルに陥り、樹木を結果的に枯死に至らせてしまうことが明らかになった。

  • 種子生産や異常気象がどのように樹木を衰退へと導いていくか、その過程の模式図。青線は正の効果、赤線は負の効果を表す。台風による塩害は葉面積、光合成、枝の通水性を低下させ、乾燥は枝の通水性を低下させ、種子生産は葉面積の低下をもたらす。それらの結果、貯蓄でんぷん量は低下し、大きな枝や個体の枯死をもたらす

    種子生産や異常気象がどのように樹木を衰退へと導いていくか、その過程の模式図。青線は正の効果、赤線は負の効果を表す。台風による塩害は葉面積、光合成、枝の通水性を低下させ、乾燥は枝の通水性を低下させ、種子生産は葉面積の低下をもたらす。それらの結果、貯蓄でんぷん量は低下し、大きな枝や個体の枯死をもたらす(出典:京都大学)

森林や樹木は我々の生活と密接に関わっており、人類は自然から得られるさまざまな資源によって支えられている。今後もこの資源を確保していくためには、温暖化の影響を予測し、それに対する対応策を練っていくことが必要不可欠である。

同研究は、今まで樹木の衰退や枯死ついて唱えられていた「通水欠損仮説」と「糖欠乏仮説」が、それぞれに化学的な証拠を持って唱えられていることに疑問を感じ、樹木の生理的な衰退過程を特に水と糖に着目して行われた。

同研究チームは今後、温暖化対策を進めると共に、将来予測を行う基礎的な研究が必要不可欠とし、森林生態系の将来予測の精度を上げていくとした。

文中注釈

※1:多くの個体が数年おきに一斉に開花し、大量の種子を生産する現象
※2:小笠原の乾性低木林の代表的な樹木で、花以外にあまり特徴はない 学名Distylium lepidotumマンサク科イスノキ属である