三菱重工は2022年7月29日、同社飛島工場(愛知県飛島村)において、H-IIAロケット47号機のコア機体を報道公開した。機体はこのあと種子島宇宙センターへ運ばれ、組み立て、試験ののち、今年度中に打ち上げられる予定となっている。

同ロケットには、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のX線分光撮像衛星「XRISM」と小型月着陸実証機「SLIM」の2機を搭載する。片や宇宙を観測する望遠鏡、片や月面に降り立つ月着陸機。目的も軌道もまったく異なる2つの宇宙機を、同時に打ち上げるミッションに挑む。

  • H-IIAロケット47号機のコア機体。中央に写っているのが第1段機体

    H-IIAロケット47号機のコア機体。中央に写っているのが第1段機体

H-IIAロケット

H-IIAロケットは、JAXAの前身のひとつ宇宙開発事業団(NASDA)と三菱重工が開発したロケットで、2001年にデビューした。日本政府によって「基幹ロケット」、つまり安全保障を中心とする政府のミッションを達成するため、国内に保持し輸送システムの自立性を確保するうえで不可欠な輸送システムに位置付けられ、日本の主力ロケットとして運用が続いている。

全長は53m、直径は4m。ちょうど新幹線の車両2両分くらいの大きさをもつ。機体はおおまかに、第1段と第2段、衛星フェアリング、そして固体ロケットブースター(SRB-A)から構成されている。

打ち上げ能力は、たとえば地球観測衛星などが運用される、地球の高度数百kmを南北に回る太陽同期軌道(SSO)には最大約5.1t、気象衛星や通信・放送衛星が打ち上げられる静止トランスファー軌道(GTO)には最大約6.0tで、大型ロケットに分類される能力をもつ。

また、SRB-Aの装着数を2本ないしは4本、またフェアリングも3種類の中から選択して装着でき、さまざまな質量、形状の衛星に柔軟に対応できるほか、2機の衛星を同時に打ち上げ、それぞれ異なる軌道に投入したり、月・惑星探査機を打ち上げたりといった芸当も可能で、多種多様な衛星の打ち上げをこなすことができる。

2001年の初打ち上げ以来、これまでに45機を打ち上げ、6号機を除くすべてが成功。通算の打ち上げ成功率は約97.8%で、また7号機以降は39機が連続で成功しているなど、世界的にも高い信頼性をもつ。

また、天候不良など不可抗力によるものを除き、ロケットの機体や地上設備などの技術的なトラブルによる延期が少なく、ロケットをあらかじめ決めた日時できっちり打ち上げることができる「オンタイム打ち上げ」率が高いという特長もある。

2007年には、JAXAから三菱重工への技術移転、運用移管が行われ、13号機からは同社が衛星打ち上げの受注からロケットへの搭載、そして打ち上げまで責任をもって行う「打ち上げ輸送サービス」を手掛けている。つまり三菱重工は宇宙への宅配業者に、そしてH-IIAは宇宙への宅配トラックのようになっている。

さらに2011年度からは、H-IIAの性能をさらに高めるために「基幹ロケット高度化」開発も実施。2015年の打ち上げから導入し、静止衛星の打ち上げ対応能力の向上や、衛星搭載環境の緩和、そして地上設備の簡素化を実現した。

こうした高い性能と信頼性という特長を活かし、気象衛星や準天頂衛星、情報収集衛星といった日本政府や機関の衛星のほか、小惑星探査機「はやぶさ2」のような科学衛星など、数々の重要な衛星を宇宙へ送り届けてきた。また、韓国やカナダ、アラブ首長国連邦、英国といった海外の機関、企業からも打ち上げ受注を獲得し、打ち上げを手掛け高い評価を得ている。

  • 2001年に打ち上げられたH-IIAロケット試験機1号機。以来20年以上にわたり、日本の基幹ロケットとして活躍している

    2001年に打ち上げられたH-IIAロケット試験機1号機。以来20年以上にわたり、日本の基幹ロケットとして活躍している(出典:JAXA)

H-IIA 47号機のコア機体

今回報道公開されたのは、今年度打ち上げを予定している47号機のコア機体である。コア機体とは、H-IIAの中で三菱重工が製造を担当している、第1段と第2段機体やロケットエンジン、そしてその間をつなぐ段間部のことを指す。

ちなみに、SRB-AはIHIエアロスペースが、またロケット先端にある衛星を覆う衛星フェアリングは川崎重工が製造を担当しており、これらは打ち上げを行う種子島宇宙センターでコア機体と組み立てられるため、この工場にはない。

防塵服とヘルメットを着用し、エアシャワーを浴びて工場内に入ると、ゴォーという空調の厳かな音を背景に、円柱型をした巨大な第1段機体が現れる。直径4m、長さは31mもあり、とても一目では見渡せない。打ち上げ時には、この中に推進剤の液体酸素と液体水素が満載され、地上から飛び立ち宇宙へ赴くのに必要なエネルギーを溜め込む。その形状も相まって、語弊を承知で言えば巨大なドラム缶という印象を受ける。

その下部には、メイン・エンジンの「LE-7A」が取り付けられている。LE-7Aたった1基で、ジャンボジェット機のエンジン4基分もの推力(パワー)を叩き出す。エンジンそのものはカバーに覆われており、直接見ることはできないものの、エンジンの付け根やタンクとつながっている配管など、普段は決してお目に掛かれないところを覗き見ることができた。

その隣には、第2段機体と段間部が結合された状態で鎮座。第1段機体と比べると小さいものの、それでも直径は同じ4m、長さも11mあり、見上げるほどの大きさがある。段間部に隠された部分には、宇宙空間で動かすための大きなノズルを付けた「LE-5B-2」エンジンがたたずむ。第1段とSRB-Aによって宇宙空間へ打ち出された第2段機体は、このLE-5B-2エンジンによって、地球を回る軌道に乗るのに必要な第一宇宙速度の秒速約8km、あるいはそれ以上へ加速する。

新幹線のようにギリシア彫刻のような美麗な形状もしていなければ、F1マシンのように複雑な空力パーツが散りばめられているわけでもない。ロケットは、ただただあらゆる無駄を削ぎ落とした機体と、強力なパワーを叩き出すロケットエンジンをもって、軌道へ向けて飛翔するのである。そのドラム缶然とした姿は、むしろ究極の機能美の表れといえよう。

この天翔けるドラム缶を造るためにかかった期間は、部品の製作から数えておよそ3年。これまで大きなトラブルなく、順調に製造を完了したという。機体公開が行われた時点で、コア機体は同工場での機能試験を終了し、出荷準備作業中の段階にあった。このあと、機体は専用のコンテナに入れられ(その作業を「収缶」という)、船で種子島の島間港へと運ばれる。その後はトレーラーで種子島宇宙センターに搬入される。

SRB-AはIHIエアロスペースの富岡工場にて製造中の段階。また衛星フェアリングも、川崎重工の播磨工場で製造中の段階にある。

SRB-Aとフェアリングも完成し次第、種子島宇宙センターへ送られ、そしてコア機体と結合。宇宙へ飛び立つロケットの姿になり、宇宙を仰ぐように種子島の地面にそびえ立つことになる。

  • H-IIAロケット47号機の第1段機体

    H-IIAロケット47号機の第1段機体

  • H-IIAロケット47号機の第1段機体を下部から。赤いカバーに覆われているのがメイン・エンジンのLE-7A

    H-IIAロケット47号機の第1段機体を下部から。赤いカバーに覆われているのがメイン・エンジンのLE-7A

  • H-IIAロケット47号機の第2段機体。手前側の黒い円筒形の部分は段間部で、ここと第1段機体とがつながる

    H-IIAロケット47号機の第2段機体。手前側の黒い円筒形の部分は段間部で、ここと第1段機体とがつながる