米国内の半導体研究・製造に総額527億ドルの補助金を支給する「CHIPS and Science Act of 2022(CHIPS法)」の成立に伴い、半導体デバイスや装置メーカーだけでなく、半導体材料メーカーの米国誘致が活発化する兆候が見えはじめたようである。
日本が強みとしてきた半導体製造装置・材料産業だが、その開発・製造拠点の一部はすでに先端半導体製造を行っている台湾や韓国に移転しており、経済産業省(経産省)は「米国の国内製造回帰の動きが活発化するのに伴い、今後は米国にも移転し、日本が空洞化する懸念がある」ことをすでに2021年の時点で表明していたが、その懸念がいよいよ具現化しそうな気配である。
すでに複数社が北米での生産に向けた検討を開始
例えば、すでに昭和電工と韓SKは、半導体の製造工程で使われる高純度ガス事業の北米での協業を検討する覚書(MOU)を2022年6月末に締結し、2社共同で北米にて半導体用高純度ガスを生産する準備を進めている。
米国政府が推進しようとしている米国内での半導体製造強化に伴い、米国での材料の需要も拡大することが見込まれる。しかし、昭和電工の半導体用高純度ガス事業は従来、アジアの生産拠点で生産・充填を行い、米国へ輸送する体制であったため、輸送コストの上昇や、物流の混乱による供給不安といったビジネス上の課題を抱えていた。
そうした課題に対応するため、エッチングガスにおいてトップクラスのシェアを有する昭和電工とSKグループで高純度ガス事業を担当し、クリーニングガスおよび成膜ガスでトップクラスのシェアを有するSK Materialsは今回、共創を進め、米国での事業拡大を狙おうとしているようである。
すでに昭和電工とSK Materialsは2017年、半導体用高純度ガスの製造・販売を行う合弁会社「SK ShowaDenko」を韓国に設立。窒化膜のエッチングガスであるCH3Fの現地生産を行っており、HBrの現地生産も準備中である。
JX金属は半導体製造に使うスパッタターゲットの新工場をアリゾナ州に建設中で、米国での生産能力を、IntelやTSMCのアリゾナ工場が稼働し始める2024年までに現在の2.5倍に増やす計画である。
三菱ガス化学も、半導体洗浄用に使われる超高純度過酸化水素(H2O2)の米国での生産量を今後10年間で3倍近く増やす計画を立てている。同社は、過酸化水素を、日本のほか、米国(オレゴン州、テキサス州)、韓国、台湾でも年4万トン規模で製造し、世界シェアの5割を握っているという。
ちなみに、CHIPS法にて支給される補助金は、半導体デバイスメーカーの新工場建設のみならず、材料メーカーの工場新設・増設にも支給されることになっている。
なお日米両政府は7月下旬、日米経済政策協議委員会(経済版2プラス2:EPCC)の初会合を開き、次世代半導体の量産に向けて協力していくことで合意した。2020年時点で中国の生産能力は世界の15%とされていたが、それが2030年には24%に上昇するとの予測もある。現状、先端半導体の生産能力の大半を握る台湾での有事を想定すれば、生産網の分散は必須となってくる。
半導体の生産拠点を分散させるためには、先端半導体に用いる高機能部材で高いシェアを持つ日本の素材メーカーの対応も不可欠となることから、今後も日本の素材メーカーの米国での現地生産が拡大しそうである。