アドビが8月2日から4日にかけて「未来をつくる教育のDX」をテーマに開催したオンラインイベント「Adobe Education Forum 2022」から、中学・高校での実践事例を紹介する。
「Adobe Education Forum 2022」では、3校の中高の実践事例を現役教員が紹介した。
1校目は、国際的なコンペティションで受賞するほどの成果を挙げた映像制作。2校目は、Adobe Creative Cloudを使用したWebデザイン/学校CM/学校紹介リーフレットの制作。3校目は、1人1台端末と学校のコンピュータ室の関わりについて。なお3校とも、中高併設または一貫校だった。
授業での映像制作が自身を見つめ直すきっかけに
1校目は工学院大学附属中学校・高等学校の事例となる。講演者は同校英語科の教員を務める中川千穂氏だ。
中川氏によると、同校は東京都八王子市にある私立の中高併設校で、英ケンブリッジ大学出版の教材で英語の授業を実施するCambridge English Schoolであり、またROUND SQUAREという国際的な私立学校の組織の正規会員校だという。
中川氏の授業では、プロジェクト・ベースの考え方を取り入れているとのことだ。これは、従来の暗記やドリル、講義中心ではなく、生徒が考え、自ら活動する授業となる。その取り組みは、ブルームのタキソノミー(目標分類学)とヴィゴツキーの最近接発達領域を組み合わせたものだという。
「生徒たちが卒業して社会に出て行った時は、1人ではなく皆と一緒に働くということを重視し、この思考行動を取り入れました」(中川氏)
授業での映像制作は、6年前に始めたという。そもそものきっかけは、広島への研修旅行だったという。
「団体旅行の事前学習として、みんなで一緒にプロジェクトをすることを大切にしてほしいと考え、活動を考えました」と、中川氏は当時を振り返る。
平和についての映像をチームで作成することを課題にしたところ、平和という形のないものを映像で表すために、生徒たちは調査し、考え、まとめ、その結果さまざまな映像祭で入賞したという。
映像制作では、対象に関する知識に加え、著作権、取材交渉、論理的に映像を組み立てる方法、誰が見るのか、見る人達の気持ちを慮る、撮影して編集するまでのさまざまな日程などを、自ら考え学んでいったと中川氏は語る。
映像制作を通じて自らを見つめ直したこと、取材交渉や日程などで生じた困難を乗り越えたこと、完成した映像への評価から自身が何者なのかを考えたことなどは、「青年期の自己同一性の確立、アイデンティティの確立に寄与したと考えています」(中川氏)
コロナ禍では、人と直接関わることができなくなったり行動制限を受けたりしたが、生徒たちはテクノロジー活用のチャンスと捉え、映像制作を進めて考えを深め、創造性を発揮したとのことだ。
中川氏はここで、ROUND SQUARE創設者であるクルト・ハーンの言葉「Your disability is your opportunity」を引用し、「ディサビリティがあったからこそ、創造性を発揮することができたのだと考えています」と振り返った。
テクノロジーの使用にあたり、わからないことを教員に尋ねることもあったというが、むしろ生徒たち自身で解決したり、オンラインで調べたり専門家に尋ねたりといった手法を用いることが多かったという。