液体が冷えて融点を下回る過冷却の状態になると「結晶前駆体」ができ、そこから結晶核が生まれて結晶に成長し固体になる。この過程で前駆体が結晶核だけでなく、結晶の成長にまで大きく寄与することがシミュレーションで示された。東京大学の研究グループが発表した。成果は水などの身近な物質の理解を深めるほか、工業材料の生産など産業への応用も期待されるという。
液体が冷えた時の結晶の形成と成長はかつて、液体中のランダムな状態から突然に結晶ができるといった古典的理論で説明された。しかし2010年、結晶化しやすい物質では前駆体ができたり消えたりしていることを、今回の研究グループの田中肇・東京大学名誉教授(同大先端科学技術研究センターシニアプログラムアドバイザー、ソフトマター物理学)らが示した。
結晶は粒子が3次元に規則正しく配列した固体。構成する一つの粒子からみると、隣の粒子の位置、つまり向きと距離が定まって配列している。前駆体では向きがほぼ定まっているものの、距離がまだ不安定な状態。さらに距離が整うことで結晶になる。
結晶核ができた後、前駆体が結晶の成長も助けるようだが、具体的にはよく分かっていなかった。
そこで研究グループは、原子や分子の動きに着目したコンピューターシミュレーションを試みた。金属元素のタンタル、ジルコニウム、銅、白金のほか、銅ジルコニウム合金、ニッケルアルミニウム合金、ケイ素、水の8つの物質を調べた。これらの液体の前駆体を、液体の他の部分に影響しないようにしながら消すシミュレーションをした。
すると、前駆体を減らすと結晶核の形成が大幅に抑えられ、結晶の成長も劇的に遅くなった。つまり前駆体があることで結晶核が生じやすくなり、また前駆体が結晶との境界部分で、結晶の成長も促していることが示された。さまざまな物質で、従来の理論に基づく予測との違いも調べた。
一連の結果は過冷却の液体についての従来の認識を覆し、結晶成長の理論に重要な修正を迫る成果となったという。田中名誉教授は「結晶化や結晶成長の制御の理解は、水などの自然現象の理解にとどまらず、半導体材料のシリコン(ケイ素)の結晶化など、産業分野でも重要だ。基礎科学から応用まで大きな波及効果が期待される」と述べている。
成果は英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に4日に掲載され、東京大学が8日に発表した。
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