東京大学(東大)、AGC、広島大学、京都大学(京大)の4者は、すべての頂点にフッ素原子が結合した立方体型分子「全フッ素化キュバン」を合成し、その内部に電子を閉じ込めた状態を観測することに成功したと発表した。
同成果は、東大大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻の杦山真史大学院生、同・秋山みどり特任助教(現・京大大学院 工学研究科 分子工学専攻 助教)、同・米澤侑希大学院生、同・野崎京子教授、AGC 技術本部 材料融合研究所の岡添隆上席特別研究員(東大大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻 非常勤講師兼任)、広島大大学院 先進理工系科学研究科の駒口健治准教授、京大大学院 工学研究科の東雅大 准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米科学誌「Science」に掲載された。
これまで、立方体型のキュバン、正十二面体型のドデカヘドラン、サッカーボール型のフラーレンなど、美しい構造を持った多面体型分子が多数開発され、それらの多面体型分子の内部空間に原子や分子を閉じ込める研究が進められており、これまでのところ、金属原子や希ガス原子、水素分子、水分子などの閉じ込めに成功したことが報告されている。
そして、量子化学計算によって予想されているのが、「多面体型分子のすべての頂点の炭素にフッ素原子が結合していると、その内部空間に電子が閉じ込められる」というものだという。これは、電子が入っていない空の分子軌道が多面体の内部に集合して、電子を受け取りやすい「最低空軌道(LUMO)」を形成するためだという。
この予想は注目されているが、すべての炭素にフッ素原子が結合した多面体型分子の合成が難しく、なかなか実現できなかったという。そこで研究チームは今回、立方体型分子キュバンの8つの頂点すべての炭素にフッ素原子が結合した「全フッ素化キュバン」の合成に挑むことにしたとする。
これまでの研究例では、キュバンの8つある炭素のうち、最大で2つしかフッ素原子を導入することに成功していなかったという。従来方法では複数の化学反応によって1つずつフッ素原子を導入するため、8つのフッ素原子を導入するためには多数の手順が必要であり、全フッ素化キュバンの合成は現実的ではないと考えられていたからだという。