台湾の国家安全保障当局は、電子機器受託生産大手の鴻海精密工業に対し、中国のNANDメーカー長江存儲科技(YMTC)や通信向け半導体の設計を手掛ける紫光展鋭(UNOSOC)などを傘下に抱える紫光集団への出資計画を撤回するよう求めていると複数の欧米メディアが8月10日付で報じている。

鴻海は7月、子会社を通じ7億9800万ドルを紫光集団に出資し、同社2番手の株主になった。しかしこの計画は本来、台湾経済部(日本の経済産業省に相当)投資審議委員会の承認が必要となるもので、台湾当局者の話では、当局は承認しない方針だと欧米メディアは伝えている。

鴻海は、半導体事業への参入を進めており、一時はレガシー半導体工場であるシャープの福山事業所を買収する話もあったが、現在はマレーシアやインドに300mmウェハファブを建設することを検討しており、中国では、紫光集団への出資を通して、YMTCやUNISOCへ接近しようとしている。

Nancy Patricia Pelosi(ペロシ)米下院議長の台湾訪問後、台湾海峡の緊張が増している状況下で鴻海の紫光集団への出資はますます困難になると台湾関係者は見ており、経済部とは別に台湾国家安全保障当局も国家安全保障の見地から同計画について調査を進めているという。

台湾当局は、鴻海の資金が中国共産党に流れることを懸念しているという。現在、鴻海は生産ラインを少しずつ中国以外の国と地域に移管しているものの、依然として75%の生産能力を中国本土に残している。

中国当局が紫光集団や大基金幹部を資金の私的流用で拘束

中国政府が国策で組成・運営している半導体ファンド「国家集成電路産業投資基金(通称:大基金、Big Fund)」は、国有銀行などから集めた資金を国内の半導体関連企業に振り向け、中国政府が進める産業育成政策を具現化するために使われてきたが、中国捜査当局は7月下旬、この基金のトップである総経理を法律違反などの疑いで調査を始めた。集めた資金の一部を私的流用した疑いがもたれている。さらに大基金幹部が芋づる式に身柄を拘束されたという話もあり、現に当局からは8月9日付で大基金の管理機関である華芯投資管理の元・現上級幹部3人を調査しているとの発表もあった。

この捜査の動きは大基金の投資先にも広がりをみせており、大基金から多額の出資を受けた紫光集団で長年トップを務めた人物も身柄を拘束されたほか、元共同総裁などの身柄も拘束されたという。大基金は紫光集団傘下のYMTCやUNOSOCに出資している。中国共産党が第20回党大会の開催を秋に控える中、こうした摘発の動きが活発化している背後には、中国の半導体産業が期待ほど成長してないためだという。

  • 中国のIC市場規模の推移と外資も含めた中国内での半導体製造額

    中国のIC市場規模の推移と外資も含めた中国内での半導体製造額 (出所:IC Insights)

中国は2015年に発表した産業育成策「中国製造2025」にて、半導体を重点育成産業に選定し、自給率を2025年に70%まで高める目標を打ち出したが、その後自給率はほとんど上昇していない。米IC Insightsの調べでは、2021年時点で16.7%(Samsung西安工場など外資の生産額を含む)で、中国地元企業だけだと6.6%に過ぎない。2026年になっても自給率(外資を含む)は21%ほどと見られており、70%には遠く及ばない。

大基金の相当額が不正流用された模様で、中国共産党指導部は、このような腐敗の横行が「半導体自給自足」への道を阻んでいるとして、捜査当局に徹底した不正調査するよう指示しているという。