米国のバイデン(Joe Biden)大統領は8月9日(米国時間)、連邦議会が7月下旬に可決した「CHIPS and Science Act of 2022法案(CHIPS法)」に署名し、同法案が正式に成立した。CHIPSはCreating Helpful Incentives to Produce Semiconductors(半導体製造のために役立つインセンティブ創設)の略で、法案提出議員団による独自の造語である。

バイデン政権は「CHIPS and Science法は、コストを下げ、雇用を創出し、サプライチェーンを強化し、中国に対抗する」と題するファクトシートを発表し、法案の可決を経て、早くも国内の半導体企業による投資の発表が相次いでいることを強調した。

  • CHIPS法

    ホワイトハウスが発表の公式ファクトシート (出所:WHITEHOUSE)

CHIPS法は、中国との技術競争に備えた総額約2800億ドルの法律で、半導体産業への資金援助527億ドルが含まれている。ファクトシートによると、内訳は半導体製造助成に390億ドル(車載および軍事防衛向けレガシーチップ製造への20億ドルを含む)、半導体研究開発助成に132億ドル、国際情報通信技術セキュリティおよびサプライチェーン活動に5億ドルとなっている。また、半導体製造のための設備投資に対する25%の投資減税も実施し、米国における半導体工場建設を補助金と減税の両面で援助するものとしている。

なお、米国から助成金を受けとった企業は、その日から10年間、中国を含む特定国に対して特定の半導体製造を新規で行うための投資を禁止するとCHIPS法は規定しており、これが今後どのように厳しく運用されるか注目される。

半導体材料業界にも応分の補助金を要望

米国の半導体材料市場調査および多くの材料メーカーのコンサルティング会社であるTECHCETの社長兼CEOであるLita Shon-Roy氏はCHIPS法の成立を受け、支給される補助金が、半導体デバイス製造に偏りそうな状況にあることに対し、「材料がなければ、半導体を作ることはできない。米国で新たな半導体工場が増加し始めると、材料サプライチェーンは緊張に強いられることが予想される。材料の生産と研究開発への多額の投資は、最先端の化学物質と材料のサプライチェーンを強化するために必要である。これまでに我々は、米国を拠点とする半導体製造用の高純度化学物質が輸入に頼っていることを明らかにしている。これには、(日本製の)高純度の化学薬品やシリコンウェハが含まれる。(海外ではなく)米国内で生産される化学物質および材料に対するCHIPS法による資金提供と支援は、サプライチェーンを大幅に強化し、輸入への重大な依存を軽減できる」とのコメントを発し、材料の開発や製造にも政府の補助金をもっと支給するよう要請している。

半導体製造に向けた助成金は390億ドルだが、米国内および海外から誘致した半導体工場だけではなく装置メーカー、材料メーカーなど多数の半導体関連企業でいわば山分けすることになるわけで、個々の企業が受け取れる補助金は、日本政府がTSMC熊本工場(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing:JASM)に支給する助成金額4760億円よりも少なくなる可能性もある。