「実学教育と人格の陶冶(とうや)」を建学の精神として掲げ、日本有数の学生数の多さを誇る近畿大学(近大)は、2025年に創立100周年を迎える。同大学はこの節目を迎えるにあたって、学内施設整備へ大規模な投資を決定。東大阪キャンパスなどの設備充実を推進している。

  • 近畿大学東大阪キャンパス

    近畿大学東大阪キャンパス

近年のコロナ禍を契機として、各大学がリモート教育の導入・活用を行う中、近大はなぜキャンパス設備を充実させるための投資を行うのか。そして、今まさに大学の主役である学生にとって、キャンパスに足を運ぶ価値は何なのか。

今回は、近大のキャンパス戦略に携わる同大学副学長の渥美寿雄氏と、東大阪キャンパスに通う大学生2名へのインタビューを通して、前後編に分けて「コロナ時代におけるキャンパスの価値」に迫る。前編では、渥美氏のインタビューと共に近大のキャンパス戦略を解剖する。

  • 近畿大学副学長の渥美寿雄教授

    近畿大学副学長の渥美寿雄教授

キャンパス刷新へ大規模投資を行う近畿大学

2022年5月時点で3万4156人の学生が在籍する近畿大学は、9つの学部と短期大学部が集まる東大阪キャンパスに加え、医学部の大阪狭山キャンパス、生物理工学部の和歌山キャンパスなど、西日本に6つのキャンパスを構える。

  • 近大の6キャンパスとそれぞれ位置する学部

    近大の6キャンパスとそれぞれ位置する学部

創立100周年に向けたキャンパス整備では、医学部と近畿大学病院の泉北ニュータウンへの移転や、奈良キャンパスの多目的教育棟建設、広島キャンパスの食堂改修など、さまざまなキャンパスの設備拡充を進めている。

中でも東大阪キャンパスでは、2022年度より新設された「情報学部」の学部棟建設や2014年に始動した大規模整備計画「超近大プロジェクト」を実施。今年度に完了するという超近大プロジェクトでは、大学独自の分類「近大INDEX」によりタイトリング・選書された約7万冊の書籍が並ぶ「アカデミックシアター」などの整備が行われた。

新学部開設に際して情報学部棟を建設

近大が2022年に新設した情報学部は、近年重要性が高まるIoT・ビッグデータ・AI・ロボットのような技術革新により拡大する社会のニーズに応えるIT人材の育成に向けた教育を行う。初代学部長には、ソニーの家庭用ゲーム機「プレイステーション」の開発者としても知られる久夛良木健(くたらぎけん)氏が就任した。

学部の開設に際して建設された情報学部棟は、通常の講義で使用する教室に加え、最新テクノロジーを活用した多様な学びの空間が用意されている。

学生主導のイベントも開催可能な「esports Arena」

所属学部を問わず利用できる「esports Arena」は、eスポーツ向けにゲーミングパソコンが31台設置された空間で、音響や照明の設備も充実している。さらに実況席や観客席も用意され、学生主体のイベントなども開催できるとのことだ。

  • 情報学部棟のesports Arena

    情報学部棟のesports Arena

学生による発表の場としても期待される「i-CORE」

また、高性能のプロジェクターによって壁面に投影できるデジタルコンテンツ空間「i-CORE」では、学生がプログラミングして制作した作品の展示や、研究発表の場として活用されるという。

「バーチャル上での授業にはないリアルな体験が得られるよう、学生の学びの場として情報学部棟の設備充実に力を入れている」と渥美氏は語る。

  • 幻想的な雰囲気のi-COREでは壁面にプロジェクターでの投影が行われる

    幻想的な雰囲気のi-COREでは壁面にプロジェクターでの投影が行われる

「知の空間」アカデミックシアターにも注力

さらに渥美氏によると、近畿大学ではアカデミックシアターの整備にも注力したとのことで、「『知の空間』というコンセプトのもと、新たな発見や発想が生まれ、それが人と関わりながら成長する場になるよう、工夫を凝らしている」という。

また今回のキャンパス整備について、「対面授業はもちろん、課外活動を含めたキャンパスでの生活について、より高いレベルを実現して学生の満足度を高めることが狙いだ」と語った。

  • アカデミックシアターには近大INDEXに従って数多くの書籍が立ち並ぶ

    アカデミックシアターには近大INDEXに従って数多くの書籍が立ち並ぶ

地元ものづくり企業と交わる実学拠点「THE GARAGE」

課外活動に向けた施設の一例として挙げられるのが、アカデミックシアター内に新設された「THE GARAGE(ザ・ガレージ)」だ。同施設には、3Dプリンタやレーザカッターなどの工作機器が設置され、それらを利用して工作を行うことが可能。施設内の機器を用いて作成された作品や、ものづくりの町として知られる地元・東大阪の企業が手掛ける製品などの展示も行われている。

  • ものづくりを実現する実学拠点のTHE GARAGE

    ものづくりを実現する実学拠点のTHE GARAGE

  • THE GARAGEでは3Dプリンタやレーザーカッターなどの工作機器を利用できる

    THE GARAGEでは3Dプリンタやレーザーカッターなどの工作機器を利用できる

THE GARAGEは、近大所属の学生ではない一般の個人でも、会員登録を行い簡単な機器利用講習を受講することで、施設の利用が可能。また法人会員も登録しており、学生と企業との交流の場としても活用されているという。

同施設について「ものづくりによって新たな価値を創造する、というコンセプトで、まさに実学教育を実現した施設になっている」と話す渥美氏は、「リモートでは得られないような経験を実体験として提供したい」と続けた。