宇宙航空研究開発機構(JAXA)と日立造船は8月5日、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟に設置した全固体リチウムイオン電池(全固体LIB)の実証実験を実施し、宇宙で充放電できたことを確認したと発表した。

JAXAと日立造船は、JAXAが科学技術振興機構から受託した「宇宙探査イノベーションハブ構築支援事業」(太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・活動領域拡大に向けたオープンイノベーションハブ)において、「全固体リチウムイオン二次電池の開発」を共同で行う契約を締結。2016年から2018年まで共同研究・開発を進めてきた。

その後も研究は継続されており、2021年2月にJAXAと日立造船の間で、全固体LIBの実用化に向けた、宇宙での実証実験に関する共同研究契約が締結された。そして日本時間2022年2月20日には、「全固体LIB軌道上実証装置」(Space As-Lib)をISSに打ち上げ、「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに設置。現在も軌道上実証実験を継続して実施中だという。

この全固体LIBは-40℃~120℃という広い温度範囲で使用可能である。それに加え、有機電解液ではなく固体電解質を用いるため、電解液のように膨張によるケースを破損・破裂させたり、電解液が漏れ出て空気と触れることで発火したりする(リチウムは酸素に触れると激しく燃焼する)といったリスクが小さく、安全性が高い。電解液を用いた現行LIBと比較して、重量あたりまたは体積あたりのエネルギー密度が高く、同じ容量なら小型・軽量化が可能だし、同じ体積ならより容量を増やすことができる。

  • Space As-Lib

    全固体LIB軌道上実証装置(Space As-Lib)のモニタカメラ撮影画像。全固体LIBの電力で撮影が行われた (C)JAXA (出所:JAXA Webサイト)

こうした特徴から、温度差が激しく、真空環境であり、放射線にも晒される宇宙環境で利用する設備を小型・軽量化したり、低消費電力化したりするのに寄与することが可能と考えられている。そのため、現在使用されている電解液を用いた現行LIBでは難しかった省スペース化が求められる小型機器への適用や、船外実験装置などでの使用が可能になるとして期待されている。

今回の実験は、Space As-Libを「きぼう」の船外実験プラットフォームに設置された「船外小型ペイロード支援装置」(SPySE)に取り付け、宇宙環境で全固体LIBの充放電の実証を行うという内容だという(同時に、JAXAは全固体LIBの搭載を通じてSPySEの機能検証も実施中)。

そして、3月5日に充放電が可能であることが確認された。その際に得られた電力を用いて、Space As-Libに搭載したモニタカメラで地球を背景にした「きぼう」の船外実験プラットフォームの一部が撮影された。

今後の実証実験では、宇宙環境下における全固体LIBの特性などを評価する次のステップとして、基本的充放電特性データと宇宙環境曝露部特有の条件(真空、放射線、微小重力など)による容量劣化推移の評価に必要なデータを取得する予定としている。

  • 全固体LIB軌道上実証装置

    (左)全固体LIB軌道上実証装置(Space AS-LiB)。(右上)i-SEEP/SPySE 外観図と全固体LIB設置場所。(右下)Space AS-LiB構成とAS-LiB 140mAhセル(右の画像) (C)JAXA (出所:JAXA Webサイト)

将来的な、全固体LIBの用途としては、月面に設置する観測機器や、小型ローバ、さらに大容量化を実現した後には、本格的な大型ローバといった宇宙機での使用が期待されるとする。地上での用途では、従来の電池では適用が難しかった高温、低温や真空環境下にある産業装置、高温滅菌を要する医療機器やそのほか各種機器への展開を検討しているという。