過去5億年間に5回起きた生物の大量絶滅などでは、気温の変化が大きいほど絶滅の規模も大きかったことが分かった、と東北大学の研究者が発表した。気温と他の環境変化が同調するならば、現在進んでいる動物の絶滅は、将来的に大量絶滅にはなるものの、60%以上の生物種が絶滅した五大大量絶滅の規模には達しないと予測している。
恐竜の絶滅で知られる中生代白亜紀末(6600万年前)など地球史上、これまでに5回あった主要大量絶滅の原因は、大規模火山噴火や小天体の衝突とされる。その際に生じた大気や海洋、土壌などの環境の変化と、絶滅との関係性の研究が進んでいる。
気温の変化は、化石の酸素同位体比や、堆積岩中の古細菌に由来する有機分子比を手がかりに研究され、寒冷化や温暖化が大量絶滅の要因となったことが示されている。ただ、気温と絶滅規模の具体的な関係は未解明だ。
こうした中、東北大学の海保邦夫名誉教授(地球環境史)は、五大絶滅に加え古生代ペルム紀中期末(約2億6000万年前)の大量絶滅、現代の動物の絶滅に関する論文のデータを詳しく調べた。独自の気候モデル計算も活用し分析した結果、世界の気温や海水温の変化が大きいほど、陸と海の動物の絶滅規模が大きいことが分かった。気温変化の絶対値と絶滅規模との間に、相関係数0.92~0.95の非常に強い関係を見いだした。絶滅時の7~9度の温暖化、または7度の寒冷化が、五大大量絶滅にあたる60%以上の動物種の絶滅に相当するという。
気温と他の環境の変化が同調しており、動物の絶滅規模が比例関係になったと考えられるという。また、この同調は現在もみられており、将来も続く場合、動物の絶滅は五大大量絶滅の規模には達しないとの予測に至った。地層の分析で割り出した海水温の変化から過去の世界平均気温の変化を求め、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の予測と合わせて判断したという。「各国がほとんど対策を講じないような最悪のケースでさえ、五大絶滅の規模にはギリギリ達しない」(海保氏)。ただし気温以外の要因が、気温変化に同調することが前提になるという。
海外の研究グループが昨年、海の動物の絶滅が将来的に五大大量絶滅の規模に達する可能性を主張している。海保氏はこれに対し「海水温と世界平均気温の変化を同様に扱い、誤解が生じたもの」とし、新たに、世界平均気温の変化が海水温変化の1.4倍であることを示した。また海保氏はこのグループが、絶滅と同時に起きたのかが分からない気温変化のデータを多数含んで分析したとも指摘。今回は、絶滅と気温データが同時のものであることが確かな、現在を含む7つの時代の絶滅のみを調べたという。
人為的な環境変化がこのまま進むと、6回目の主要大量絶滅が起こるとの指摘がある。これに対し海保氏は、主要絶滅の規模には達しないとしながらも「大量絶滅にはなりそうだ。レベルの問題であり、人類が油断してよいということには決してならない。今後、将来の絶滅規模の予測も試みたい」と述べている。
成果は欧州地球科学連合の生命地球科学誌「バイオジオサイエンシズ」電子版に7月22日に掲載され、東北大学が25日に発表した。