クラウド型のコンタクトセンター向けプラットフォーム「CXone」を手掛けるNICEの日本法人ナイスジャパンは8月4日、コンタクトセンターにおけるCX(Customer Experience:顧客体験)に関する調査結果を公表し、記者会見を開いた。
今回の調査は、過去1年以内に商品やサービスについて企業のFAQページを閲覧、またはコンタクトセンターに問い合わせた経験を持つ消費者250人と、1日2件以上の問い合わせがあるコンタクトセンターを運営する企業の担当者250人が回答した。
会見の冒頭に、ナイスジャパンの社長を務める安藤竜一氏は「長期化するコロナ禍の中で、小売業などを中心に企業と顧客の接点は店舗からオンライン上へと移行しつつある。こうした環境においては、短時間で必要な情報を案内し最高のCXを提供することでロイヤルカスタマーへとつなげることが重要」とコメントしていた。
消費者が企業に問い合わせる際の初期行動を調査すると、46.8%の人がインターネット(Google、Yahooなど)で検索し、34.4%の人がホームページのFAQページなどを確認するなど、約8割の人がデジタルで接点を持つことが明らかになった。この結果は前年の調査結果とも類似しており、グローバル全体でも同様の傾向が見られるという。
重要な情報についてはWebサイトのSEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)対策を実施するなど、消費者が見つけやすい場所に最新の適切な情報を掲示するのが良いだろう。この段階で消費者の問題を解決できれば、チャットや電話での問い合わせ件数が減少し、コンタクトセンターの負担軽減にも寄与するはずだ。
新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、デジタルチャネルによる問い合わせが若年層(18歳~29歳)で40%、中年層(30歳~49歳)で43%増加しており、急速に問い合わせのデジタル化が加速している。
一方で、企業側はデジタルチャネルの拡充が間に合っていないことが今回の調査で明らかになった。この傾向は大企業と比較して中小企業で顕著であり、約7割の企業がデジタルチャネルの拡充を「行っていないが計画中」「行っていないし、予定もない」と回答した。
上記の通り、消費者は問題解決の初期段階として企業のFAQページなどデジタルチャネルに期待する一方で、企業としてはFAQページの更新も追いついてはいないようだ。今回の調査により、約4割の企業がFAQの更新が月に1回未満と回答したほか、半数以上の企業がFAQページ内の検索機能を設けていないことが明らかとなった。
情報が不十分なFAQサイトがコールセンターへの問い合わせが減らない要因の一つであると考えられ、安藤氏は「消費者がファーストコンタクトとしてFAQページを閲覧している現状があるので、ここに適切な情報を掲出することによってコールセンターへの入電件数の削減に効果があるはず」と指摘した。
企業に対して、コンタクトセンターでの顧客との接点をコールセンターからデジタルチャネルへ切り替える予定の有無を聞くと、44.4%が「予定あり / 切り替え中」と回答し、特に大企業(従業員300人以上)においては約6割近くに上る。
チャネルの切り替え先としてはAI(Artificial Intelligence:人工知能)を活用したチャットボットなどが代表的だが、AIチャットボットで課題が解決しなかった経験がある消費者は約半数にも上るという。電話とデジタルチャネルでの解決度合いの大きな溝が課題となっている。
コロナ禍において消費者からの問い合わせ数は増加傾向にあるようで、消費者の18.4%、および企業の26.4%が「問い合わせ数が増加した」と回答した。消費者の年代別に見ると、若年層ほど問い合わせが増加しているという。
今回の調査結果からは、多くの問い合わせ対応チャネルを設けている企業の課題もうかがえる。チャットから問い合わせのあった個人に対して電話での対応を促すような場面(複数のチャネルが切り替わる場面)で、チャットと他のチャネルがデータ連携できていると回答した企業は71.8%だ。
しかし一方で、チャネルが切り替わった際の連携不足について、同じ内容を何度も説明しなければいけないために不満を感じている消費者は54.8%にもなる。また、複数のチャネルにまたがって同一のオペレーターが対応できている企業は27.6%であり3割にも満たない。
安藤氏は「同一のオペレーターが対応できていないということはお客様に手間をかけさせている可能性が高い。もしくは、同一のオペレーターではなくとも、しっかりとデータが連携できていれば消費者の不満解消にもつながるだろう」と指摘した。企業側としては技術的にはチャネル連携ができているが、問い合わせの内容までは連携できていないとみられる。
商品購入前後のコンタクトセンターによる問い合わせ対応で商品の購入やサービス利用継続の意識が「変わる(高まる)」とする回答は70%を超えており、CXの消費行動への影響が非常に大きいことがうかがえる。
その一方で、問い合わせ対応を改善するための評価の仕組みを導入していない企業は38.0%だ。その理由としては「必要だと思わない」(60.0%)が最多で、「費用」(26.3%)が続く結果となった。
問い合わせ対応が消費行動へ与える影響が大きいことから、企業側は問い合わせ応対の品質向上に向けて、オペレーターの定期的なモニタリングと評価を実施する仕組みの導入が望ましいと考えられる。
安藤氏は「今回の調査結果から、コンタクトセンターのデジタル化が遅れているのではないかと問題を提起したい。デジタルチャネルを有効に活用して生活者のCXを向上させることは、お客様の購買意欲やサービス継続利用の意欲を高めることにもつながる」と強く語っていた。