マルチクラウド環境におけるインフラ自動化ソフトウェアを提供するHashiCorp Japanは8月3日、マネージドプラットフォーム「HashiCorp Cloud Platform(HCP)」上でクラウドセキュリティを自動化する「HCP Vault」と、クラウドサービスのネットワーキングとサービスメッシュに関するトータルソリューション「HCP Consul」を10月末から11月初旬から日本でも提供を開始すると発表した。同日には、メディア向けにオンライン説明会を開催した。
「HCP Vault」と「HCP Consul」がAWSの東京・大阪リージョンで利用可能に
HashiCorpは2012年にサンフランシスコで設立し、グローバルにおける顧客数は3000超、従業員巣は2000超となっている。OSS(オープンソースソフトウェア)の製品開発をベースとし、アプリケーションとそれを支えるインフラストラクチャのプロビジョニングやセキュリティ保護、実行、接続と連携の自動化を可能としている。
HCP Vaultは、あらゆる環境のワークロードや機密データ保護に関するサポートを行い、シークレット(APIキー、クレデンシャルなど)やそのほかの機密データの保護を目的とし、トークン、パスワード、認証、暗号鍵の安全確保・保管、それらへのアクセス管理を行う。
HCP Consulは、実行時のプラットフォームに関わらずあらゆるサービスの検出と安全な接続をできるよう設計されている。サービスディスカバリソリューションの実装やセキュアバイデフォルトでのサービスメッシュの実行を簡単に行えることを目的としている。
また、セルフサービスでオンデマンド利用を希望する個人または大企業向けの共有サービスとして利用することが可能とし、Amazon Elastic Kubernetes Service(EKS)、Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)などの環境や、Consulマルチプラットフォームサービスメッシュを使用するAmazon Web Services(AWS)のその他のアプリケーション環境で提供していいる。なお、両サービスはAWSの東京・大阪リージョンで利用が可能になる。
HashiCorpが提唱する「クラウド運用モデル」
HashiCorp Japan カントリーマネージャーの花尾和成氏は、グローバルにおいて企業経営陣、技術リーダー、担当者を対象に実施した調査結果をもとに「81%の企業がマルチクラウド環境であり、90%が自社のマルチクラウド戦略が機能していると回答した。また、86%が企業において専任チームがクラウド運用の戦略を立案して取り組んでいる」と述べた。
こうした結果は、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azure、Google Cloudなど、クラウドが進化して成熟する過程においてユーザーの利用方法、組織規模での戦略が変化しており、マルチクラウドの時代にいると言っても過言ではないという。
企業がマルチクラウド戦略を重要視する背景としては、現在はあらゆる業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進展し、AIやIoT、エッジコンピューティングなど新しい技術を活用して、新しい顧客体験を創造しているからとの認識を花尾氏は示す。
さらに、市場投入の迅速化もあることから、オンデマンドで利用でき、拡張性のあるクラウドは利便性が高く、多くの企業が戦術的にさまざまなクラウドサービスを利用している。ただ、選択肢も多いため各企業でクラウドの環境は異なるため、よりダイナミックなインフラにシフトしていこうという動きが活発化している。
花尾氏は、DXに成功している企業について「企業規模で戦略的なクラウド活用を推進している。具体的には、標準化されたワークフローやモダンアーキテクチャによおける一貫性のあるコントロールポイント、開発ライフサイクルのスピードを下げないセキュリティとコンプライアンスの両立、自動化、コスト最適化が挙げられる」と説明した。
加えて、クラウドの台頭によりインフラが従来のスタティックからダイナミックな環境にインフラが変化し、環境のプロビジョニング、セキュリティ、サービスをつなぐネットワーク、アプリケーションの実行基盤の4つのレイヤで変化が起きている。これらの変化に対して自社のIT、開発環境・体制を適応する必要に気づけているかという点も重要だという。
こうしたDXの成功と変化への対応は、戦術的なクラウド導入のフェーズから“戦略的なクラウド活用”にシフトする必要があり、その架け橋となるものが同社が提唱する「クラウド運用モデル」となる。
同氏は「戦術的なクラウド導入は、企業内で別々の組織・チームが別々のインフラストラクチャサービスを利用するため、結果的にサイロ化を招いてしまう。一方、HashiCorpはクラウド運用モデルにより、ユーザーとインフラストラクチャの間にアプリケーション、ネットワーク、セキュリティ、インフラの各スタックを用意することで、組織に統一インタフェースを提供し、運用効率と開発生産性の向上を可能としている」と力を込めた。
同社ではプロビジョンニングからネットワーク、セキュリティ、アプリケーションにいたる各領域に自動化ソリューションを展開。
IaC(Infrastructure as a Code)でプロビジョニングの自動化を可能とする「Terraform」、動的IPでサービス間通信ができるConsul、ゼロトラスト環境でも堅牢なセキュリティを提供するVault、オンデマンドなインフラの割り当てとアプリを実行する「Nomad」などを提供している。これらをマネージドクラウドサービス、同社がクラウドサービス(Terraform Cloudのみ)として提供する2つの形態を持ち、これらを組み合わせて利用することでクラウド運用モデルの実現を支援している。
国内での事業展開
今後、国内における注力活動としては「企業のクラウド運用モデル、DevSecOps(開発ライフサイクルの各段階でセキュリティとコンプライアンス要件を検証)推進の支援」「パートナー企業との連携強化」「コミュニティの拡大」を進める。
企業のクラウド運用モデル、DevSecOps推進の支援では、クラウド導入フレームワーク、CCoEにおけるポリシー・ガイドライン策定と運用コストの効率化を支援するとともに、マルチクラウド環境におけるゼロトラスト運用、DevSecOpsの推進を支援。
パートナー企業との連携強化に関しては、導入アセスメントをはじめとしたソリューションの提供やCSP(クラウドソリューションプロバイダー)、リセラー各社との共同プロモーション、テクノロジーパートナーとの連携シナリオに取り組む。
コミュニティの拡大については、ユーザーグループ、各製品コミュニティ(Terraform、Vault)の拡大、開発者向けフラッグシップイベントの開催を予定している。
花尾氏は「スピードを向上させてコストを最適化し、リスクを最小化する。これら3点をすべてのレイヤにおいて当社は提供している。今後、セルフマネージド型の提供に加え、クラウドSaaS型のHCPの国内展開を本格化させていく」と意気込みを語っていた。