ものづくり大国・日本を支えてきた製造業の現場。高い技術力を持ちつつも、現在は欧米や新興国との競争にさらされている。こうした中、カシオは日本の老舗メーカーとして、今後グローバルで戦っていくために、全社を挙げたSCM(サプライチェーンマネジメント)、PLM(製品ライフサイクルマネジメント)を進めている。広範囲に及ぶ改革を成功に導くための秘訣は何だろうか。
7月22日に開催された「TECH+フォーラム 製造業DX Day Jul. 持続的な競争優位性を構築する」に、カシオ計算機 デジタル統轄部 シニアオフィサー 開発・生産改革担当の矢澤篤志氏が登壇。「製造業DXの課題とカシオのSCM・PLM改革について」と題し、講演を行った。
インダストリー4.0への対応が遅れる日本
矢澤氏はまず、世界で加速するインダストリー4.0に言及した。インダストリー4.0は2010年代にドイツで始まった、製造業における第四次産業革命を指す。その枠組みの中心となるのが「生販在調整と在庫の可視化」だと、同氏は言う。そのためにはサプライチェーン領域での垂直統合と、PLM領域での水平統合プロセスが欠かせない。
ドイツでは、SAPがデータの管理統合の領域を強化。ERPとの連携を進めたことで、サプライチェーン領域で垂直統合が実現できる環境整備が進んだ。PLMの領域でも、CADベンダーの大手であるシーメンスがパッケージの強化やベンダーの買収などにより、設計領域に加えて、生産や製造管理の領域にも守備範囲を拡大してきた。それらのソリューションは、ドイツだけでなく、欧米各国や新興国にも広がり、今では多くの国で垂直・水平統合したものづくりが行われている。
一方、日本では2000年以降、多くの企業でERPシステムが導入され、経営の効率化や財務的な改革が進められてきた。ERPのデータを統合し、サプライチェーンの効率化に取り組んだ企業もあるが、「グローバルなデータを統一し、サプライチェーンを構築するところまで至らなかった企業が多い」と、矢澤氏は当時の状況を語る。PLMに関しても、同時期から、3D CADのデータ活用が開発設計分野では進んでいたが、生産領域や保守領域には及んでいなかったという。その要因を同氏は「それぞれの機能ごとに作られたプロセスや仕組みにあった」と分析する。