米SiFiveは7月28日に都内で記者会見を開催し、日本法人を開設する事を発表した(Photo01)。

  • SiFive Japan代表取締役(予定)のSam Rogan氏

    Photo01:SiFive Japan代表取締役(予定)のSam Rogan氏(左)と、SVP Business Development, Customer Experience, Corp. MktgのJack Kang氏(右)

実は厳密に言えば、まだSiFive Japan株式会社は存在しない。現在会社設立の手続きの最中だそうで、あと1~2週間ほど掛かる見込みという話である。なので実はまだオフィスも存在していない(一応、品川あたりに拠点を設ける事を予定している、との事であった)。今回はその日本法人の代表取締役(予定)のSam Rogan氏と、本社のSVPであるJack Kang氏(に加え、SVP, Worldwide SalesのJerry Ardizzone氏)が来日して、同社の説明を行った。

RISC-Vに興味のある方ならSiFiveの名前は当然ご存じかと思う。RISC-V ISAそのものを作ったUC BerkeleyのKrste Asanovic教授とYunsup Lee氏/Andrew Waterman氏の3人が、単にISAに留まらず、それを商用向けに展開すべく作ったのがSiFiveである。

RISC-V ISAそのものの説明は、(他媒体の記事で恐縮だが)こちらとかこちらで紹介させていただいている。

またSiFiveそのものについても、これまた他媒体で恐縮だが、2017年のRISC-V Days Tokyoのレポートのこちらで紹介しているので、ご存じない方はご覧いただけると幸いである(Photo02)。

  • Andrew Waterman氏

    Photo02:左からAndrew Waterman氏、Yunsup Lee氏、Krste Asanovic教授である。ちなみにAsanovic教授はSiFiveではChief Architectというポジションにおられる

そんなSiFive、創立は2015年にも関わらず、すでに750人以上の従業員を抱え、デザインウィンは300以上、企業価値は25億ドルに達している。実は2022年3月の時点で同社は複数のベンチャーキャピタルから合計で3億5000万ドルの投資を受けており、それもあってRISC-Vを手掛ける企業としては飛びぬけてリッチと評判である。本社はサンマテオ(シリコンバレーのちょっと北、Oracleの本社のお隣の市である)であるが、2022年6月には英ケンブリッジにR&Dセンターを開設しているし、他にインドにも開発拠点がある。資金的にゆとりがあるので、それを生かして拡大戦略を取っているというのが正確なところで、今回の日本法人の開設もそうした流れの中にある、と考えるのが妥当だろう。

  • ちなみにこのデザインウィンのうち結構な割合を占めるのは、同社が2018年に買収したOpen-Siliconというデザインハウスの持っていたデザインウィン

    Photo03:ちなみにこのデザインウィンのうち結構な割合を占めるのは、同社が2018年に買収したOpen-Siliconというデザインハウスの持っていたデザインウィンであり、全部が全部RISC-Vではないことに注意

さて、そのRISC-Vであるが、マーケットそのものは確かに拡大しているし、日本でも次第に普及が始まりつつある。こちらのグラフ(Photo04)はRISC-V Internationalに加盟するメンバー企業の数で、2020年あたりから急速に拡大している。

  • メンバー企業は圧倒的にアメリカと中国が多い

    Photo04:メンバー企業は圧倒的にアメリカと中国が多い。中国は、特にトランプ大統領(当時)の時代の輸出規制政策の前後から急速にRISC-Vへの傾倒が進んだ

また以前のRISC-V Internationalの推定では2025年までに累計600億個のRISC-Vコアが出荷されるという話だったが、最近はさらに上方修正されて1000億個に届く、という可能性もあるとかいう話であった。こうした中で、SiFiveのコアは結構広く利用されている。一番判りやすいのはルネサスで、SiFiveと次世代自動車向けプロセッサの共同開発を行う事を2021年4月に発表している。またIntelは今年2月に開催したInvestor Meeting 2022の際に、IFS(Intel Foundry Service)でSiFive/Andes/Esperanto/Ventana MicroSystemsなどのRISC-V IPをサポートする事を表明したが、これに加えてSiFiveはP550コアを利用したSoC(コード名はHorse Creek)がIntel 4で量産される事を発表しているといった具合だ。

  • SamsungもSiFiveのコアをサポート

    Photo05:Samsungとの協業は、同社のFoundry BusinessでSiFiveのコアをサポートするという話である

そもそもRISC-Vの立ち上げ時期は、まだ商用グレードのCore IPが多くなかった。そのため、例えばMicrochipのMI-Vとか、LatticeのMachシリーズとか、さまざまな製品にSiFiveのコアが利用されている。製品そのものも徐々に増えており、現在はSiFive EssentialがE/S/Uの3グレード×2/6/7 Seriesで合計16製品、PerformanceがP650/550/270の3製品、IntelligenceがX280だが、これはSIMDエンジンであり、X280単体で動かすというよりもPerformance向けのコアと組み合わせて使う、といった感じのものである(Photo06)。

  • SiFiveの各種コア概要

    Photo06:Essentialは32bit MCU向けのE Core、64bit Controller向けのS Core、それと64bit Application ProcessorのU Coreからなる。U CoreのハイエンドのU74は4.23/3.32 DMIPS/MHz(Best/Legal)なので、大体Cortex-A35程度。PコアのハイエンドのP650はCortex-A7xシリーズと競合できる、とされる

さて、説明はこの程度であるが、ちょっと質疑応答から。実は国内では2019年にDTSインサイトがSiFiveの正規代理店になっており、実際RISC-V Days TokyoなどではこれまでDTSインサイトがSiFive製品の紹介を行っていた。

今回の国内支社設立で関係がどうなるか? という話であるが、少なくとも現時点ではDTSインサイトは引き続きSiFive本社の代理店として活動する事になり、これと並行してSiFive Japanが立ち上がる事になる(つまりSiFive Japanの代理店になったりはしない)との事だった。また当初の立ち上げメンバーは4人程度で、まずは営業とサポートということになるが、これは次第に増やしてゆきたいとのこと。ただし次はQA(品質管理)で、その次位に開発といった事を現在は想定しているそうだ。このあたりは本社の戦略も絡んでくると思うので、まだ流動的な要素は大きそうだ。

またこの時期に日本法人を立ち上げたという理由だが、やっと日本でもRISC-Vマーケットが立ち上がってきたから、という話であった。実は同じ話がRISC-V Days Tokyo 2019でもあった。この当時、すでに中国とか韓国はRISC-Vへの傾倒がかなりはっきり見えていたのだが、「日本は大体3年遅れ」というのが当時の日本の動向に対する評価であった。ということは2022年あたりから本格的に日本のマーケットでもRISC-Vが盛り上がるという訳で、これに向けてSiFiveでも本腰を入れてマーケット開拓を行いたい、という事だそうだ。

実はこれに先駆け、Codasipも4月に日本オフィスを開設し、明石貴昭氏がカントリーマネージャーに就任している。今年はあと4か月ほど残っているが、あと何社くらい日本市場に参入してくるか、ちょっと興味あるところだ。