他者から挑発されるといつもより激しい攻撃をする脳の仕組みを、マウスの実験で解明した。筑波大学などの日米研究グループが発表した。脳内の3つの部位が順に働いていた。人間の暴力性の理解にもつながる可能性があるという。

われわれが他人から悪意を向けられると、いら立ち、攻撃的な気持ちになる。オスのマウスもライバルに挑発されると、攻撃が激しくなる。研究グループはこれまでに、この時に中脳の部位「背側縫線核(はいそくほうせんかく)」が、神経伝達物質「グルタミン酸」を多く受け入れていることを明らかにしている。

さらに解明を進めるため実験をした。オスのマウスは自分の縄張りに別のオスが入るとある程度の攻撃をするが、事前に挑発されていると、攻撃が激化する。そこで実験では、縄張りに、かごに入った別のライバルのオスを置き、見えているのに攻撃できない“じらし”の状態にしばらく置き、この「通常攻撃」と「挑発攻撃」の時の脳の働きを比べた。

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    オスのマウスは挑発されると攻撃が激化する(筑波大学提供)

その結果、間脳の「外側手綱核(がいそくたづなかく)」から背側縫線核へと延びる神経細胞が、挑発攻撃により活性化した。ただ通常攻撃では活性化しなかった。外側手綱核は不快情動やストレスに関わることが知られている。

この神経細胞を人為的に活性化すると、攻撃が通常より激化した。逆に抑制すると、挑発を受けても攻撃が通常攻撃と変わらない程度にとどまった。こうした結果から、この神経細胞は通常攻撃ではなく、挑発を受けた際の攻撃の激化に関わることが分かった。

また、背側縫線核から中脳の「腹側被蓋野(ふくそくひがいや)」に延びる神経細胞を活性化すると、攻撃が激化することも突き止めた。

なお背側縫線核には、神経伝達物質「セロトニン」を作り出す神経細胞が多い。セロトニンは攻撃などに関わるとされてきたが、具体的な働きには謎が多かった。そこで実験でセロトニンが関わる神経細胞を抑制したものの、意外にも挑発の効果は変わらなかった。つまり攻撃を激化させるのは、セロトニンと関係のない何らかの神経細胞であることが分かった。

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    挑発を受けると脳内の3つの部位が順に働き、攻撃が過剰に(筑波大学提供)

一連の結果から、攻撃が過剰になる仕組みの一端が明らかになった。オスにとって、攻撃は縄張りを守るのに重要だ。ただ過剰な攻撃は適応的ではない。挑発による攻撃の激化は、さまざまな動物にみられる。人間では、衝動的な攻撃の多くは悪口を言われた、にらまれた、危険運転をされたなど、他人に挑発されたと感じた時に起こる。攻撃を適切に抑えられえず過剰になる仕組みを理解することは、人間の暴力性の問題の理解にもつながる可能性があるという。

研究グループの筑波大学人間系の高橋阿貴准教授(行動神経科学)は「動物の攻撃が激しくなる仕組みの理解を目指している。人間は社会的に攻撃をほとんどしない種になったが、それでも攻撃が出ることがある。その仕組みの理解に、ゆくゆくはつなげたい」と述べている。

研究グループは筑波大学、米マウントサイナイ医科大学、東北大学、慶応大学、名古屋大学などで構成。成果は英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に21日掲載された。研究は科学研究費助成事業、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業、JST研究成果最適展開支援プログラムなどの支援を受けた。

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