日本ヒューレット・パッカード(HPE)は7月28日、オンラインでESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みに関する記者説明会を開いた。今回の説明会は、同社が発表したESGに関する目標達成に向けた進捗とGHG(温室効果ガス)削減目標を加速させる新たな取り組みについてまとめた年次報告書「2021年版 Living Progress Report」にもとづいている。なお、Living Progressの詳細は公式ホームページで公開し、日本語版(英語版)レポートは9月の公開を予定している。
ESG戦略を支える3つの柱
Living Progress Reportは、HPEにおけるESG戦略の枠組みであり、パーパスに「人々の生活と働き方の向上」、ミッションに「データファーストな世界のために持続可能で公正なテクノロジーソリューションの創出」を据えている。
戦略の柱として「ネットゼロへの加速」「人への投資」「誠実な運営」の3つを挙げている。
日本ヒューレット・パッカード サステナビリティ推進部 部長の安本豐勝氏は「それぞれの戦略に対して、当社のビジネス、地域、地球そのものに最も大きく影響を与えているマテリアルイシュー(重要課題)を定め、焦点を当てて事業活動を行っている」と述べた。
ネットゼロの達成を2040年に前倒し
安本氏は、特にネットゼロへの加速について重点的に説明した。まず、現状認識の課題としてITソリューションのエネルギーとリソースの消費量を削減することは顧客からの高まる期待に応え、厳しい市場参入のための要件を順守し、ビジネスの長期的な実行可能性を確保するめに重要だという。
そのようなことから、同社では2040年までにネットゼロ企業になることにコミットメントし、これまでバリューチェーン全体における気候科学にもとづく目標を設定している。
具体的には、2015年にIT企業で初めて自社とサプライチェーンのGHG(温室効果ガス)削減目標を策定し、SBTi(Science Based Targets initiative)から認定されている。
また、2017年にサプライヤー気候管理プログラムを開始、2018年には自社運用のGHG排出量を1.5度シナリオに再調整し、2020年にはTCFD(Task Force on Climate related Financial Disclosures)分析を先駆けて公表しており、2022年に気候目標を役員報酬に結び付けている。
SBTiは、科学と整合した温室効果ガスの削減目標を企業が公的に宣言・設定・実行していくことで「パリ協定」で掲げた「世界の平均気温上昇を2℃未満に抑える」という目標を達成するためのイニシアチブだ。同イニシアチブでは昨年に「企業ネットゼロ基準 Ver 1.0」を公表している。
同基準では、(1)目標対象年は遅くとも2050年まで、(2)範囲はバリューチェーン全体、(3)削減水準は2050年までに20%の削減、(4)実質ゼロ化の手段は炭素除去のみとなっており、現在これらの基準を満たす企業は世界で約270社、アメリカは55社、日本では20社だという。
目標達成のためにScope3の削減に注力
前述の通り、HPEでは今回の報告書の公開に合わせて、ネットゼロの達成を従来の2050年から10年前倒しして2040年に達成する方針を示している。
そのため、2030年(2020年基準)の短期目標として、自社からの排出分のScope1とScope2を2020年比70%削減、サプライチェーンの排出分であるScope3は同42%削減、2040年にはバリューチェーン全体となるScope1~3の排出量を同90%削減することを目標としている。
ここで言及されているScope1~3というのは、サプライチェーン排出量(事業者の原料調達・製造・物流・販売・廃棄など一連の流れ全体から発生するGHG排出量)のことで、国際的なイニシアティブであるThe Greenhaouse Gas Protocol Initiative(GHGプロトコルイニシアティブ)が策定した基準。
事業者によるGHGの直接排出をScope1(直接排出量)、他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出をScope2(間接排出量)、Socpe1、Scope2以外の間接排出をScope3(そのほかの間接排出量)としている。
安本氏は「当社は達成するためのロードマップを公開し、これらに取り組み、今後は気候関連のKPIを役員報酬に紐づけて、説明責任を負わせるようにしていく。ネットゼロ基準を満たしたうえで、基準より10年前倒しで達成させる野心的な目標だ。現状で当社のカーボンフットプリントは自社排出分が3%であり、大半はScope3が占めていることから、目標達成の鍵はScope3の削減だ」と力を込めた。
同社のカーボンフットプリントのうち、自社排出量を除く、31%がサプライチェーンに伴うもの、66%が製品・ソリューションに伴うものとなっており、同社ではデータ管理ソフトウェアプラットフォームや排出量削減に向けたソリューションを積極的に提供していくことで目標の実現を目指すという。
多くの企業がサステナブルなIT戦略を持ち合わせていない
ただ、平均的なデータセンターではコンピュータリソースの25%は有効活用されておらず、残りのリソースはキャパシティの一部だけで運用している。
加えて、2019年には5360万トンのE-waste(コンピュータなどの電子廃棄物)が発生し、2030年には7470万トンに増加すると予測されている。また、2015年~2021年の間に気候関連の規制数は254%増加している。
さらに、同社が2021年にIDCに委託した調査によると、企業はサステナビリティに重点を置いてるにもかかわらず、多くの企業がサステナブルなIT戦略を持ち合わせていないことが確認されたという。
その背景として安本氏は「多くの企業のIT部門がテクノロジーの活用・運用にサステナビリティを組み込む必要性を強く認識しておらず、レジリエンスやダウンタイム、セキュリティ、コストなどに重きを置いたIT管理を行っている。さらに、企業がサステナブルなITの必要性を認識している場合においても、サステナブルなIT戦略にどのような要素を含めるべきか立案方法を把握していない」との認識を示す。
サステナブルなITインフラ戦略の策定から実行までを支援
このような状況に対して、同社ではサステナブルなITインフラ戦略の策定から実行までを支援し、そのアプローチは「循環の創出」「最大効率での運用」「追跡と透明性の強化」の3点だ。
循環の創出では、テクノロジーをより長く使用し続けてアップサイクルにより、IT資産が持つ内在する価値を見つけ、リサイクルよりもリユースを優先することで、テクノロジーの寿命が延びてサーキュラーエコノミーを強化するという。
具体的には「HPE Asset Upcyclying Service」により、既存のIT資産を廃棄せずにHPEに売却することでテクノロジーの再利用を促進し、製品の持続可能性を高めることを可能としている。
最大効率での運用に関しては、複数世代のITを簡素化してエネルギー使用量とコスト、E-wasteの削減を図る。同社のクラウドサービスである「HPE GreenLake」で包括的なIT効率戦略を実装できるという。
追跡と透明性の強化については、資産管理に必要な規制やコンプライアンスを容易に管理することを可能とし、「HPE GreenLake Cloud Platform」がエッジからパブリッククラウド含む環境全体を最適化する運用・管理環境の提供により、使用状況の可視化リソースのコスト管理、コンプライアンス、監査などの規制対応を支援する。
また、HPE GreenLake Cloud Platformに「Sustainability dashboard」の追加を予定しており、IT環境全体のエネルギー使用量とCO2排出量を可視化し、将来的にはこれらのデータをAIや機械学習を活用して環境の最適化、さらなるエネルギー効率の向上を図る支援を行う考えだ。
「人への投資」と「誠実な運営」
人への投資では競争の激しい人材市場において、資格を持つ多様な写真をひきつけ、維持・関与させ、育成することが成功に不可欠だという。そのため、同社ではエンゲージメント、インクルージョン、人材開発を中心にフォーカスしている。
結果として、社員のエンゲージメントはコロナ禍において過去最高の84%に達し、人材開発においては自主的にトレーニングを修了した社員は98%、社員の自主的リテンションの割合は93%にのぼる。
また、社員の多様性としては2027年までに黒人系とヒスパニック系のエグゼクティブの人数を2倍、女性のエグゼクティブの比率を24.7%(2021年)から33%に拡大する。
一方、誠実な運営に関してはエンタープライズIT企業の複雑かつグローバルなバリューチェーンは倫理的行動、サイバーセキュリティ、またはそのほかの人権問題の違反に起因する規制・評判・混乱に関連するリスクの増大をもたらすという。
同社では、正しい方法でビジネスに取り組み、サプライヤーやパートナーを高い倫理基準で保つとしている。2030年に向けて、雇用主支払い原則にコミットするサプライヤー、労働者に人権に関してトレーニングを行う主要サプライヤー、効果的な苦情処理プロセスがあるサプライヤーサイト(Tier1および2)それぞれで100%を目指す方針だ。
安本氏は「HPEのESG戦略はネットゼロへの加速がE(環境)、人への投資がS(社会)、誠実な運営がG(ガバナンス)となる。当社はESG戦略をビジネスの戦略と強く結びつけて事業展開し、人々の生活と働き方の向上を目指す」とコメントしていた。