国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は7月26日、統合失調症患者の社会復帰に大きく影響する社会認知機能の障害を、脳の左上側頭溝への「経頭蓋直流刺激」(tDCS)が改善することを確認したと発表した。

同成果は、NCNP 精神保健研究所 児童・予防精神医学研究部の住吉太幹部長、同・病院司法精神診療部の山田悠至医師らの研究チームによるもの。詳細は、心理学全般を扱う学術誌「Frontiers in Psychiatry」に掲載された。

精神疾患の一種である統合失調症は一般人口の約0.7%が罹患するとされており、その主な症状としては、幻覚や妄想などの陽性症状、感情の平板化や引きこもりなどの陰性症状が挙げられる。また、記憶や注意、問題解決能力などの神経認知機能、心の理論や表情知覚などの社会認知機能の障害は、患者の社会復帰などに対し、陽性・陰性症状よりも大きな影響を及ぼすとされる。

tDCSとは頭皮上に2つのスポンジ電極を置き、1~2mA程度の微弱な電流を当てる方式のニューロモデュレーションで、麻酔の必要がなく、副作用のリスクが小さい低侵襲性脳刺激法で、神経伝達物質の調整など脳の神経活動を調整する手法として知られている。

統合失調症患者の社会認知機能の改善を目指すこれまでの研究では、tDCSの刺激部位として、前頭前野が選択されてきた。左前頭前野に対する陽極刺激については、神経認知機能の改善効果がある一方、社会認知機能への効果は乏しいとされてきたという。しかし従来方法では、社会認知機能の重要な要素である「心の理論」の充分な改善は得られていなかったという。