EYストラテジー・アンド・コンサルティング(EYSC)は7月25日、オンライン、オフラインによるハイブリッド開催で食に関連する生産者、消費者、中間業者、研究機関や政府などをつなぐハブとなり、課題解決を目指す「食の未来創造支援オフィス」を設置することを発表した。
同オフィスは、これまでEYSC内で農水産業向けコンサルティング、ルール形成、ブロックチェーンを活用したサプライチェーンマネジメントなど、個別に活動していたチームを集約し、組織を横断したチームで構成。
一企業では解決が困難な食の課題について、EYがハブとなり、さまざまな知見を持つステークホルダーをつなぎ、食の安心・安全を推進するとともに地域の活性化やクライアントの事業拡大に貢献するという。
日本を取り巻く“食”の現状
昨今では、世界人口の増加や原油高、ロシア・ウクライナ情勢の影響などで食品の原材料価格が高騰し、国内メーカーは値上げを検討せざるを得ない状況となっている。これらは日本の食料自給率(現在はカロリーベースで37%)が年々減少していることが影響し、輸入に頼らざるを得ない環境であり、食料安全保障の観点からも懸念があるという。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング ストラテジックインパクト パートナーの荻生泰之氏は「これに対して、日本政府は国産品を増産して輸入品の一部を置き換えることで食料自給率(生産額ベースで2030年度に2020年度比7ポイント増の75%)の改善を図っている。一方、農業就業者の減少や高齢化が進行しているほか、農地も減少しているため、国内生産力の維持・向上策が必要だ。また、フードロスは社会問題だけではなく、消費者による企業の支持も左右する重要な経営課題であり、サプライチェーンマネジメントの高度化ニーズが高まっている」との認識を示した。
そのため、同社では食の未来創造支援オフィスを設けることにしたというわけだ。荻生氏は「食品生産・販売でビジネスインパクトを生み出すために、スタンダードとレギュレーションを定めるルール形成を進めていく。つまり、ビジネスインパクトを与えるためには“標準”を決めることに加え、レギュレーションにより“規格化”させる仕掛けが必要だ」と力を込める。
スタンダードに関しては野菜の鮮度など共通のモノサシを設定し、レギュレーションについては生食可能な鮮度といったモノサシを活用したルール化に取り組み、ビジネスインパクトでは高品質の野菜提供をはじめとした優位性を活かしたビジネス展開を推進するという。
食の未来創造支援オフィスが提供する6つのソリューション
こうした、考えのもと食の未来創造支援オフィスの主なソリューションは以下の6つだ。
生産現場のスマート化支援
生産現場で暗黙知として蓄積されてきたノウハウの可視化や、先行知見とデジタルを融合させた効率的生産システムや新規ビジネスモデルの構築を支援。国内外食品流通のスマート化支援
需給情報を活用した売買マッチングによる食品流通の効率化、輸出時における決済の効率化、輸出相手国での輸入手続き電子化交渉などを支援する。標準化戦略の策定支援
食に関する市場拡大には適正品流通による正当な評価を獲得する機会の創出が有効となり、自社や日本の優位性が最大化される競争領域および協調領域の設定に向けた、JASやISOといった国内外標準の戦略的活用を支援。ブロックチェーン技術を活用したサプライチェーンマネジメント支援
食の安全性や品質・鮮度保証のためのトレーサビリティシステム構築の支援や、企業のデータプライバシーを確保しながらの在庫適正化など、複数企業にまたがるサプライチェーンマネジメントの高度化をブロックチェーン技術も活用して支援する。地方活性化・事業拡大支援
生産活動を起点とした6次産業化や新規販路構築、越境ECによる地方特産品の海外展開などによる事業拡大や飲食産業振興および観光コンテンツ化などによる交流人口の獲得戦略策定などを支援。研究・開発マネジメント支援
機器メーカー、IT系企業、食品会社やバイオベンチャーなどのポートフォリオ拡大やイノベーションマネジメントとして、研究開発成果を社会実装に結び付ける技術獲得戦略の策定やオープンイノベーションの実行を支援する
ジャパンブランド戦略への転換の必要性
荻生氏は「食品の輸出拡大のため地域ブランド同士の産地間競争が生じている現状からオールジャパンによる総合力での輸出に向けたルールを形成すべきだ。しかし、国内生産の余剰分を輸出しているため、大衆的な海外消費者のニーズとは一致していないほか、ニーズを満たす商品を安定的に提供しなければ小売店の販売棚の確保ができずに認知度が低い状況など、海外市場における日本食品の課題も存在する」と指摘する。
例えば、輸出拡大向けては地域ブランド戦略による負の循環ではなく、海外消費者ニーズに合わせた輸出品としての生産や大規模ロット生産とし、加工・流通は規模の確保で物流コストを抑え、販売面では現地の一般小売店において常時販売して、認知度の向上を図る“ジャパンブランド戦略”による好循環への転換を図るべきだという。
さらに、生産性向上や作業性改善、品質・付加価値向上、持続性向上を目指し、ロボット、AI、IoTなど先端技術を用いた生産のスマート化の必要性を同氏は説く。
その中で、米国やオランダにおけるデータ活用の農業を引き合いに出していた。また、1次産業~3次産業を組み合わせた6次産業化を推進することで食の生産・流通におけるスマート化を促進させることも視野に入れている。
ブロックチェーンを活用した新手法とは
そして、新たなソリューションの取り組みついて、同社におけるブロックチェーンを活用したワインに関するトレーサビリティのサービス「EY OpsChain for Food Traceability」を荻生氏は紹介した。
同サービスは栽培から醸造、梱包、配送、販売までの各業務におけるデータの一元管理を可能とし、栽培農家、醸造所、物流業者、消費者が各フローでデータの参照・活用ができるというものだ。
同氏は「もちろん消費者が購入したワインが、どのような育成・ボトリングをされて運ばれてきたか知ることができる一方、川上の栽培・醸造では作業の見える化が推進される。消費者がトレーサビリティを確保することが可能なことに加え、栽培・醸造の事業者も作業が可視化されることから、効率化されて競争力の強化につなげることができる」と説明した。
また、ブロックチェーンを用いた食料のサプライチェーンプラットフォームの構築が望ましいと同氏は述べている。これは、食料のサプライチェーンは倉庫から工場、店舗を経るに至って、どの程度の品目・数量があるのかは現時点で把握されていない状況だという。
荻生氏は「今後のことを考えると、どこにどれくらいの食料があるかを把握することが必要なほか、災害時における食料供給にも有効となり、ひいてはフードロス対策にも有効だ。情報を持つだけでなく、サプライチェーンが効率化していく必要もあることから、需要と供給のバランスを適度に保ち、サプライチェーンの5適(適時・適品・適量・適所・適価)を満たすためにも情報が連携されることが肝要となる」と強調した。
そこで、同社はブロックチェーンの新手法を開発しており、在庫情報を共有するのではなく「次回いつ発注が起きそうか」という情報をブロックチェーンで共有することで生産や調達に際して判断材料を得られることに加え、いつかは発注することになるため前もって予定日を知らせられることからプライバシーは守られるという。
さらに、ブロックチェーンに渡される情報は「公開鍵暗号方式による暗号化+可読性を失わせる加工」を行い、万が一情報漏えいしても情報提供企業以外には意味がないように処理するため、データプライバシーを十分に確保している。
同氏は「社外のブロックチェーンにデータを送信することのプライバシー上の懸念を排除し、多様な企業が参加しやすい仕組みであり、一連のアルゴリズムについては特許を取得している」と話す。
最後に、荻生氏は「当社では食に関して、いかにビジネスインパクトを創出するかが使命だ。そのためには課題解決とともに、まずは産官学連携によるルール形成が重要だ。また、1次~3次産業の壁を超えた食の生産・流通・販売・消費における課題を解決し、国内の知見と当社のグローバルネットワークを活用したソリューション開発に取り組んでいく」と述べていた。