国際宇宙ステーション(ISS)で9月にも長期滞在を開始する宇宙飛行士の若田光一さん(58)が21日、都内で会見し「ISSは月や火星探査に向けた技術実証の場でもあり、若い世代が夢をつなげるよう取り組みたい」と意気込みを語った。日本人最多の5回目の飛行となる。

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    会見する若田光一さん=21日、東京都中央区

冒頭で若田さんは、毛利衛さん(74)が日本人で初めて米スペースシャトルに搭乗して今年で30年となったことに触れた。「日本の飛行士や技術が築き上げてきたものを誇りに思う。(ISSの実験棟)『きぼう』がさまざまな成果を創出し、物資補給機『こうのとり』も9機連続で成功した。信頼の高まりを実感する。今回も成功させ、来年の古川聡飛行士(58)の長期滞在につなげたい」とした。

若田さんは米露の3人とともに、米スペースX社の宇宙船「クルードラゴン」5号機でISSに向かう。「私以外は全員ルーキー(初飛行)。経験に基づいてたくさんアドバイスしており、宇宙でもサポートしたい」。ロシアのウクライナ侵攻で緊張が高まる中、ロシア人女性1人がクルードラゴンに同乗する。これに関連して「ISSは世界15カ国が平和目的で進めている。地政学的な問題がある中でもきちんと協力し、運用に大きな影響はない。現場はチームワークで成果を最大化するよう、日々努力することに変わりはない」と強調した。

米航空宇宙局(NASA)とロシアの宇宙開発公社ロスコスモスは今月に入り、双方の宇宙船に相手国の飛行士が搭乗し合うことで新たに合意した。若田さんは「もし宇宙に行く乗り物が(世界に)1つしかないと、トラブルで使えなくなる(人類が宇宙飛行の手段を失う)。宇宙船が複数あるべきだ。米露の座席交換の成立は、ISSの安定運用につながる非常に重要なことだ」と評価した。

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    NASAの施設で船外活動の訓練をする若田さん=4月(JAXA、NASA提供)

半年間にわたる滞在中の活動予定の例として、遠心力で試料に人工的に重力をかける装置を使った実験を紹介。月面車のギアなどに使う潤滑油の、月や火星の重力での性質を調べるという。「日本の優れた技術が月面探査につながるように取り組みたい」。また「船外活動の訓練をしてきたが、まだ機会がない」と意欲を示した。

3回飛行した後輩の野口聡一さん(57)が「後輩や新人に道を譲るべきだと考えた」として、宇宙航空研究開発機構(JAXA)を6月1日で退職した。若田さんは「淋しいが、経験を生かし宇宙活動を支えてくれると強く期待している。私は毎回『これが最後の飛行』と思ってやってきたが、有人宇宙活動の現場で生涯現役であり続けたい。実際の飛行か、地上でシステムの構築や利用、運用を支えるのかはさまざまだが、それが希望だ」とした。

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    会見する若田さん=21日、東京都中央区

若田さんは1963年、埼玉県生まれ。九州大学大学院工学研究科修士課程修了。日本航空で整備や機体構造技術に携わった後、1992年、宇宙開発事業団(NASDA、現JAXA)の飛行士候補に選出された。2004年、九州大学大学院工学府博士課程修了。過去4回の飛行では(1)1996年、シャトルに日本人初の搭乗運用技術者として搭乗、(2)2000年、日本人として初めてISS建設に参加、(3)09年、日本人初のISS長期滞在を実施、(4)13~14年の長期滞在の後半約2カ月間、日本人初のISS船長に就任--し、数々の「日本人初」を成し遂げてきた。

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