NTT東日本グループのテルウェル東日本は7月21日、コロナ禍が長期化する中で、小売店舗の非接触ニーズや効率的な運営に対する要望に応えることを目的として、入店から商品選択および決済までをスマートフォンアプリで支援する「店舗向けスマート化ソリューション」を軸とした新規事業(以下、スマートストア事業)を開始すると発表、メディア向けのデモンストレーションを実施した。

同事業では既存店舗へのソリューション納入だけでなく、来店客の属性データと曜日や来店時刻、当日の天候データなどを組み合わせて分析し、店舗運営に関するコンサルティングサービスや新規店舗開設時のプロデュースなども展開する。

  • 説明会に登壇したテルウェル東日本 常務取締役営業企画部長 山本和也氏

    説明会に登壇したテルウェル東日本 常務取締役営業企画部長 山本和也氏

テルウェル東日本はNTT東日本グループの中で、ビル清掃やオフィスコーディネート、防災ソリューション、オフィスビルに入居する食堂および売店などを手掛けている。今回の新事業は、同社が築いてきた地域とのつながりを生かしながら、NTTグループが持つICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)のノウハウを組み合わせて推進する。

スマートストアとは、小売業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)に資する取り組みの一つだ。クラウド技術やAI(Artificial Intelligence:人工知能)、IoT機器、ICTなどの先進的なデジタル技術を活用して店舗スタッフの省人化あるいは無人化を実現する仕組みを指す。

  • スマートストアの概要

    スマートストアの概要

テルウェル東日本がスマートストア事業として展開するのは、実店舗向けにスマートストア化ソリューションを提供する「サービス」、新規店舗のデザインのサポートや既存店舗の運営を支援する「コンサルティング」、同社が実店舗の運営まで実際に行う「ストア運営」の3軸だ。なお、ストア運営に関しては今後段階的に挑戦する予定としている。

  • テルウェル東日本は3つの軸でスマートストア事業に挑む

    テルウェル東日本は3つの軸でスマートストア事業に挑む

小売業を営む事業者向けの具体的なブランド名は「SMARTORE(スマートア)」に決定した。AIを用いた発注予測サービスなどを手掛ける「SMARTORE AI」、店内の映像データに基づいて販売分析レポートを手掛ける「SMARTORE DATA」、スマートストアの出店計画や店舗構築を手掛ける「SMARTORE SUPPORT」などのサブブランドも設けている。

  • 「SMARTORE」ブランドイメージ

    「SMARTORE」ブランドイメージ

一方で、エンドユーザーとなる来店客向けのブランド名は「ピックスルー」だ。屋号や店名が決まっていない新規店舗には、ブランド名称を貸し出すことも可能だそう。オフィスや病院施設に入居する売店を中心とする「ピックスルー STORE」、自動販売機やミニスタンド型店舗を中心とする「ピックスルー MINI」、コンテナ型店舗を中心とする「ピックスルー BOX」など、同一のブランド名で展開することで来店客への認知の定着を狙う。

  • 「ピックスルー」ブランドイメージ

    「ピックスルー」ブランドイメージ

SMARTOREでは、基本サービスとしてスマートフォンアプリ決済型のクラウドPOSサービスによってレジの無人化あるいはレジ無し店舗の運営を支援する。ここで取得した顧客属性データを分析し、さらに購買行動のデータなどと組み合わせることで販売数予測や仕入れ業務の効率化ににつなげる。これらのデータ分析結果はデジタルサイネージや電子棚札、アプリを介したプッシュ型の情報配信へと活用することでさらなる販売促進が見込める店舗経営を目指すとのことだ。

また、同社は、AIによる正確な売り上げ予測や効率的な仕入れを実現することで、食品廃棄を削減して持続可能な社会にも資することができると見ている。

  • SMARTOREが目指すデータドリブン経営

    SMARTOREが目指すデータドリブン経営

同社とNTT東日本が実施した実証実験によると、コロナ禍で利益率マイナス10%と赤字に転じていたNTT東日本本社ビル内の売店をスマートストア化したことで、スタッフ数を3人から1人に減らしながらも利益率を9%まで向上できたという。営業時間も延長しており、一部の時間帯は完全に無人で運営できているようだ。

さらに同店では、AIを活用した発注予測の仕組みを導入したことで売り上げが159%向上している。天候や来店客属性の傾向から売れ筋商品の仕入れを調整することで、あんぱんの売り上げが最大で286%向上したような例もあるという。

  • SMARTOREを活用した売り上げ改善の例

    SMARTOREを活用した売り上げ改善の例

同様に、NTT横須賀総研内の売店はコロナ禍で利益率がマイナス89%まで大幅な赤字となっていたが、スマートストア化によって8%の黒字化に成功している。こちらの店舗もスタッフを3人から1人に減らし、営業時間を延長して24時間営業としている。早朝や夕方以降は無人で運営している。

  • スマートストア実証実験の例

    スマートストア実証実験の例

SMARTOREを利用する事業者は、同サービスによって発生した売り上げの約3%をシステム利用料としてテルウェル東日本へ支払う仕組みだ。来店客が使用するスマートフォンアプリの使用料は無料。なお、店舗の出入口にQRコードをかざすためのゲートを設置する場合や、AIカメラを設置する場合、陳列棚の入れ替えなどが必要な場合には別途費用が発生する。

テルウェル東日本はスマートストア事業について、3年以内に200店舗へサービスを導入し、5年後には単年度の売り上げ30憶円を目指すとしている。

同社の常務取締役営業企画部長を務める山本和也氏は「当社は通信事業を主ななりわいとするNTT東日本のグループ会社ではあるが、これまでオフィス清掃やオフィス器具の販売などを手掛けてきた強みがある。お客様の現場に近いところで小売店舗の支援ができるはず。東日本エリアに限らず、西日本の皆様の支援もしていきたい」とコメントしていた。

  • 山本和也氏

    山本和也氏

スマートフォンアプリを用いる来店者の入店から決済までの流れは以下の通りだ。スマートフォンにインストールしたアプリからQRコードを開き入店ゲート(ゲート設置店舗のみ)へかざして入店する。必要な商品のバーコードをスマートフォンで読み取って清算し決済する。なお、決済はあらかじめ登録したクレジットカードによる決済のほか、QRコード決済や交通系ICカードに対応している。

  • スマートフォンアプリから商品バーコードを読み取っている様子

    スマートフォンアプリから商品バーコードを読み取っている様子

  • スマートフォンアプリの決済画面

    スマートフォンアプリの決済画面

  • 退店時のQRコード画面

    退店時のQRコード画面