米国政府が推進しようとしている米国における半導体産業振興に向けた総額520億ドルの補助金を支給する法案「CHIPS法案(the Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors for America Act)」が連邦議会上院で7月19日よりようやく審議が始まった。共和党と民主党の意見の異なる部分をそぎ落としたことにより、今度こそ可決する可能性が高いという。

この動きに先立つ18日、バイデン政権は、同法案が上下両院で可決され、大統領の署名により成立した場合、米国内に工場建設するための補助金を受ける半導体企業に対し、今後10年間にわたって先端プロセス関連の中国での投資を行わないことを求める方針を示したと海外の多数のメディアが報じている。

それらの報道によると、禁止されるのは、28nmプロセス未満の先端プロセスとされており、ホワイトハウス報道官Karine Jean-Pierre氏は翌19日の記者との質疑応答にて 、中国での半導体産業の発展を遅らせるのが目的だと説明したとする。

米国を選ぶか中国を選ぶか、Samsungの憂鬱

もしも、バイデン政権の意向に沿って同法案にこの制限が含まれた場合、米国内の新たな半導工場建設に補助金を充てることを見込んでいるIntel、Samsung Electronics、TSMCの事業に悪影響をもたらすとする見方を多数のメディアが示している。

これらの中でも、Samsungは、中国の西安にあるNAND型フラッシュメモリ工場の増産と技術のアップグレードが事実上できなくなるため、NAND産業全体の発展にも支障をきたす恐れがあるという。現在、西安工場では、SamsungのNAND生産量の42%を占める月産25万個のNANDメモリが製造されており、その規模は世界全体のNAND生産量の15%を占めるという。

こうした事情を踏まえると、Samsungは、米国を選ぶか中国を選ぶかという二者択一の踏み絵を踏まされることになりそうである。

Samsung以外の多くの半導体企業(Intelをはじめとする米国企業含む)も、さまざまな形で対中投資を拡大しており、米国半導体工業会(SIA)および会員企業は、自由貿易を阻害するあらゆる規制に反対し、連邦議会に対してロビー活動を行っているという(SamsungもSIAの会員企業)。