富士通は7月21日、スーパーコンピュータ「富岳」のクラウド環境で同社の電磁波解析ソリューション「Poynting for Microwave(以下、Poynting)」を動作させ、宇宙分野や都市交通の社会課題に対する大規模電磁波シミュレーションを3カ月間実施して、クラウドサービス化の有効性を確認したことを発表した。
電子機器や宇宙機器といったものづくり分野においては、電子部品間や通信装置間における電磁波干渉などの電磁適合性問題を評価するために、電磁波解析の需要が増している。また、無線通信分野では5G(第5世代移動通信システム)サービスの開始に伴って、高度道路交通システムにおける車車間または路車間などの事故防止を目的とした、都市モデル規模の通信品質を評価するための電磁波解析にも高い需要があるという。
このような複雑、または広域かつ大規模な電磁波問題のシミュレーションを行うには、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)環境が必須であることからシミュレーションを実施できるユーザーは限られている。HPC環境を利用できないユーザーは解析精度が制限される近似解法を用いたシミュレーションを実施せざるを得ないのが現状だ。
こうした課題を解決するために、同社は厳密解を計算可能なFDTD(Finite-Difference Time-Domain Method:電磁波の挙動をコンピュータで計算する手法の一種)法を採用したPoyntingを誰でも容易に利用できるよう、クラウド型アプリケーションサービスとして提供する予定としている。同サービスの提供に向けた実証実験として、富岳をクラウド上で用いて「最新のX線宇宙望遠鏡における電磁波干渉問題の定量評価」「5Gを想定した路車間通信の通信品質評価」を実施したとのことだ。
最新のX線宇宙望遠鏡における電磁波干渉問題の定量評価では、宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)宇宙科学研究所において定量評価を実施し、複雑な衛星の詳細構造をモデル化するとともに、そのデータをもとにこれまで不可能であった真空槽の蓋を空けた状態を再現した大規模電磁波シミュレーションが可能であることを確認したという。これにより、同研究は通信用アンテナからX線分光器を収める真空槽のX線入射部に回り込む雑音となる電磁波の衛星内での強度の定量評価に成功し、軌道上でも観測性能に問題ないレベルにあることが確認できたようだ。
5Gを想定した路車間通信の通信品質評価では、建物や路上設置物、自動車などの複雑な形状の影響を考慮しながら、交差点に設置した送信機と自動車に搭載された受信機間の路車間通信の通信品質評価を実施した。実証の結果、都市モデル規模の広範囲な解析領域において波長オーダの形状まで考慮した厳密な電磁波シミュレーションを実現でき、複雑な形状の建物や設置物などの影響を考慮できることが確認できたという。また、各自動車の受信アンテナが交差点に設置した送信機から受信する電波の強度や遅延スプレッドをFDTD法シミュレーションで直接算出し、厳密な通信品質評価を実現できたとしている。