大手スポーツ用品メーカーのアシックスが、全社的なDXの取り組みを進めている。すでに成果も出ており、2015年をピークに落ち込んでいた売り上げは2021年にはV字回復したという。

6月23日、24日にオンラインで開催された「TECH+ EXPO 2022 Summer for データ活用 データから導く次の一手」では、アシックス 常務執行役員でデジタル統括部長 CDO兼CIOを務める富永満之氏が、同社が推進するデータドリブンカンパニーに向けた取り組みを明かした。

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ECは急成長、顧客接点の基盤となる「OneASICS」も強化

前身の鬼塚を入れると創業70年以上の歴史を持つアシックス。来日して同社の靴を見たPhilip Knight氏がNikeを創業するきっかけにもなったことは有名な話だ。現在はシューズ以外にスポーツウエア、低酸素ジムなどのサービスにも事業を拡大している。また、海外売上が拡大していった結果、海外売上は75%を占めるに至っているそうだ。

だが海外売上が好調で4280億円以上を売り上げた2015年をピークに、ビジネスは低調になった。「苦戦した5年間だったが、その間多くの変革をやり遂げた」と富永氏。2021年の売上高は4040億円となり、見事にV字回復を果たした。

  • アシックスにおけるデジタル戦略の概要

では、デジタルでどのような取り組みを進めたのか。富永氏は当時の課題として、卸売中心で顧客接点が限定的だったこと、希薄な顧客コミュニケーション、ITシステムが拠点ごとにありデータが活用できていないという3点を挙げる。同社は、この3つの課題を解決するデジタル戦略として、それぞれデジタルビジネス、デジタルマーケティング、デジタルサプライチェーンを策定した。

目指したのは、デジタルドリブンカンパニーだ。同社が2030年に向けて掲げる長期ビジョン「VISION 2030」でも、デジタルはパーソナル、サステナブルと共に重要なテーマになっているという。

デジタルビジネスとデジタルマーケティングについては、ECなどを強化した結果、2015年には全体の約17%程度だったDTC(Direct to Consumer)の比率が、2021年は約33%に伸長。ECだけで見ると、同期間に1.4%から15.8%までの拡大を見せた。

顧客とのタッチポイントを増やすために、アシックスは主としてランナーとの接点強化を目的に、フィットネス・トラッキング・アプリの「ASICS Runkeeper」を開発するFitnessKeeper社、レース登録サイト 「Race Roster」を開発するFast North社を買収し、アシックス無料会員サービス「OneASICS」を統合したモデルの確立を進めた。レースに登録したランナーは、それに向けてトレーニングをするというジャーニーを考えてのことだ。サービスを統合する役割となるOneASICSはECサイトのASICS.comともつなげ、同一のデータベースを置くことで、パーソナライズされた情報やサービスを提供するかたちにした。

OneASICSの累計会員数は550万人に達しており、Race Rosterの年間利用者は約200万人、Runkeeperの月間アクティブユーザー数は360万人。さらには2021年、アシックスランニングブランドの強いオーストラリアにおいて、レース登録サイト「Register Now」を運営するRegistration Logicを買収し、同国のランナーとの交流を拡大させた。

このような取り組みにより、「アシックスとデジタルでつながる人は世界で1000万人近くという環境が出来上がっている」と富永氏は言う。