分子科学研究所(分子研)と大阪大学(阪大)は7月13日、分子研 極端紫外光研究施設(UVSOR)において開発した、顕微機能を有する光電子分光測定装置「光電子運動量顕微鏡」を用いてグラファイト表面の局所的な電子状態を精密測定したところ、今まで確認されていなかった微視的な電子状態を発見し、この知見を基に原子1層のステップ(段差)の可視化に成功したことを発表した。
同成果は、分子研 UVSOR 光物性測定器開発研究部門の松井文彦教授、阪大 産業科学研究所の菅滋正招へい教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する物性物理とその関連分野全般を扱う学術誌「Physical Review B」に掲載された。
グラファイトの結晶は、ハチの巣状に並んだ炭素の原子層が積み重なる構造を持ち、へき開すると、奇数層目と偶数層目とで、それぞれ鏡面に映した関係の3回対称の構造が交互に表面に現れることから、1原子層のステップを挟んだ領域は、異なる対称性を示すことが知られているが、従来の光電子分光測定では試料上のX線の照射範囲が大きいため、両者の表面構造を全部一緒くたにして計測が行われていたという。そのため、6回対称のデータが得られており、その結果としてこれまでグラファイトの電子状態は6回対称であるということが「常識」とされてきたとする。
新規物性の現象の解明や機能性材料・デバイス開発を展開する上で、原子レベルからの計測に基づいた理解が重視されており、従来の平均構造を測る分析法ではなく、顕微機能を併せ持った高性能電子状態計測装置の実用化が求められるようになってきているという。
そうした背景を踏まえ、分子研 UVSORでは「光電子運動量顕微鏡」を開発。不均一試料のμmスケールの微小部分を拡大して観察できる顕微機能に加え、試料の物性を決定づける価電子のふるまい(2次元運動量)を可視化する機能を1つの装置で実現していることが特徴だという。