新潟大学は7月11日、中高年のコーヒー、緑茶、カフェインの摂取量と認知症リスクとの関連を縦断的に調査したところ、コーヒーもしくはカフェインを多く摂取することに認知症の予防効果のあることが強く示唆される結果が得られたと発表した。

同成果は、新潟大大学院 医歯学総合研究科 環境予防医学分野の中村和利教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国老年医学会が刊行する臨床老化研究に関する全般を扱う学術誌「Journal of the American Geriatrics Society」に掲載された。

コーヒーや緑茶、カフェインを摂取することは、認知症を潜在的に予防するといわれているものの、基礎となる科学的なエビデンスは不十分であったという。そこで研究チームは今回、それらが潜在的予防因子なのかを調査することにしたという。

今回の研究では、新潟大で実施された長期の健康推進プロジェクト「村上健康コホート調査」に参加した1万4364名(40~74歳)のうち、初回調査ですでに要介護認定を受けていた人とアンケートデータの不備を除いた1万3757人を解析対象として実施された。

内容としては、コーヒー、緑茶、カフェイン(コーヒー、緑茶、その他より算出)の摂取量が、自記式質問票の食事・嗜好品項目を用いて算出された(摂取量などの妥当性については、先行研究で報告済み)。

また今回の研究では、8年間の追跡における認知症の新規発生情報を要介護認定のデータベースより得て、認知症高齢者の日常生活自立度のIIa以上を認知症(要介護認知症)ありと判断したという。そして得られた摂取量を5グループに分け、摂取量最小のグループを基準としてほかの群のリスクが相対値(ハザード比、HR)として算出された。ハザード比の算出にあたっては、性別、年齢、婚姻状況、教育歴、職業、BMI、身体活動量、エネルギー摂取量、喫煙・飲酒習慣の影響が統計学的に調整されている。

これらの結果、コーヒー摂取量が多いほど、認知症の発生率が低下し、摂取最大の一日3カップ以上摂取のグループの発生率は、飲まないグループの0.53倍であることが示されたという。この関連性は、いずれの年代でも見られたが、性別では女性より男性で顕著だったという。

また、緑茶摂取量についても、多いほど認知症の発生率は小さくなる傾向が見られたが、統計学的に確かな低下ではなかったとする。

さらに、カフェイン摂取量が多いほど、認知症の発生率は低下し、摂取最大のグループ(中央値449mg/日)の発生率は、最小のグループ(中央値58mg/日)の0.65倍と、関連性はコーヒーの場合と同様であることが確認されたともする。

研究チームでは、これらの結果からはコーヒーに認知症予防効果のあることが強く示唆されたとするほか、カフェインでも同様のリスクの低減が見られたことから、コーヒーの認知症予防効果にはカフェインが関わっている可能性があるとしている。カフェインには、動物実験で記憶や認知機能を改善する効果が見られ、アルツハイマー病の原因物質と見なされているアミロイドβの産生抑制・除去促進効果、抗酸化作用、神経保護作用なども報告されているという。

加えてカフェイン以外のポリフェノールなども認知症予防にとって好ましい影響を与えている可能性があるという。ただしコーヒーの好ましい効果に性差が見られたことについてのメカニズムは十分解明されておらず、今後さらなる研究が必要としているほか、緑茶も認知予防の効果が期待されているものの、今回の研究ではその効果は確認できず、今後もさらに観察を続け、その効果を注視していく必要があるとしている。

なお今回の研究は観察研究であり、介入試験ではないことから、ほかの要因がコーヒーと認知症の関連に影響を与えている可能性もゼロではないとも研究チームでは説明している。たとえば、コーヒー摂取に関連する要因、性格やコーヒー好きに特有の行動に関連した未知のリスク要因など、真の予防要因が隠されている可能性があるとする。

また、日本国内で認知症のうちで約7割弱ともっとも頻度の高いアルツハイマー病は、認知症の症状の出るかなり以前の段階から脳にアミロイドβが蓄積し始めていると考えられている。そのため、認知症患者は同タンパク質の蓄積により、今回の研究の初回調査の時点ですでに嗜好が変わっていた(コーヒーを飲まなくなっていた)という可能性も否定できないともしており、より長期の観察を続けることで、このような限界を克服する必要があるとしている。

  • コーヒー摂取量と認知症のリスク

    コーヒー摂取量と認知症のリスク (出所:新潟大医学部医学科Webサイト)