ペットボトルのほか繊維や食器、自動車部品などに広く使われているプラスチックであるポリエステルを単量体(モノマー)に戻すことができる触媒反応を開発した、と東京農工大学などの研究グループが発表した。使用後のプラスチックのごみ(プラごみ)による海洋汚染対策は世界的な重要課題で、国内ではプラごみのリサイクル率引き上げ対策が求められている。今回開発した触媒反応を応用できれば二酸化炭素(CO2)を出す焼却処理をせずに効率的なリサイクルが可能。研究グループはプラごみ問題解決への貢献が期待できるとしている。
世界全体では年間800万トン以上のプラごみが海洋に流出し、2050年には魚の総量を超えるとの予測もある。日本のプラごみ総量は年間800万トンを超え、1人当たりのプラ容器ごみは米国に次いで多い。
研究グループによると、プラスチックのリサイクル率は86%とされるが、溶解して再び素材として利用する「マテリアルリサイクル」は21%で、63%は焼却処理して排熱を有効利用する「サーマルリサイクル」だ。
ポリエステルはペットボトルや繊維、食器類、家電製品、農業用資材などに大量に使われている。中でもペットボトル用のポリエチレンテレフタレート(PET)は強いアルカリ性のもとで分解できるが、分解後には大量の酸で中和する必要があった。
最近、新しい触媒反応としてリチウムメトキシドという物質を使った分解方法が報告されているものの、大量の添加剤が必要。水素ガスや加水分解酵素を用いた分解方法も報告されているが、高温や複雑な工程などの条件が必要だった。
このため東京農工大学工学府応用化学専攻博士前期課程2年の安倍亮汰さん、同大学院工学研究院応用化学部門の小峰伸之助教や平野雅文教授のほか、東京都立大学などの研究者をメンバーとする研究グループが、効率的なポリエステル分解方法の開発研究に着手した。
開発研究ではポリエステルが「エステル構造」とよばれる構造を繰り返している点などに着目。エステル構造をメタノールなどの低分子量のアルコールに次々と置き換えることができれば、最終的にはポリエステルの原料であるカルボン酸のメチルエステルとジオールに分解できると考えた。
そしてポリエステルの中でも多く利用されているポリブチレンスクシネート(PBS)を使って多くの触媒候補をさまざまな条件で検討した結果、原子番号57の希土類元素ランタンの錯体が触媒として有効であることを突き止めた。金属錯体は有機化合物や無機化合物と異なる性質を持ち、現在さまざまな応用研究が進んでいる。
この触媒反応だとセ氏90度の温度下ではPBSを4時間でポリエステルの原料であるスクシン酸ジメチル(コハク酸ジメチル)と1,4-ブタンジオールに分解できた。またこの2物質を再び重合して、メタノールを放出させながらポリエステルに戻すこともできたという。
研究グループがこの触媒反応をペットボトル用のPETで試したところ、セ氏150度でやはり4時間で原料のテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールに分解でき、市販のペットボトルを使った実証実験でも同一条件で同じように分解できた。このほか、家電製品などに利用されているポリブチレンテレフタレート(PBT)もテレフタル酸ジメチルと1,4-ブタンジオールに分解できたという。
プラスチックはポリエステルのように「縮合反応」とよばれる反応によって合成するものと、ポリエチレンのように「付加反応」とよばれる反応によって合成するもの大別できる。研究グループは「(開発した触媒反応は)安価な触媒と安価な溶媒だけで分解できる」と指摘。当面は縮合反応で合成されるプラスチックの分解の研究を進めるが、将来的には分解前のプラスチックよりも価値ある化学物質を作り出す「創造的分解」の開発にも挑戦するという。
この研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)の支援を受けて進め、研究論文は6月27日の英王立化学会誌「ケミカル・コミュニケーションズ」電子版に掲載された。
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