自分の思考が、スマートフォンという長方形型デジタルデバイスの電気信号となって久しい。まるでディスプレイを通して脳みそを観察しているようだと筆者は思う。一昔前に流行していた「脳内メーカー」の魅力であった”面白いほど雑な精度”は、いまや、スマホの検索履歴をたどれば”笑えないほどの精度”にまでなっているのだ。

今回は、そんなスマホを使った面白く画期的な研究を紹介したい。

森林研究・整備機構森林総合研究所(森林総研)は、マプリィと共同でスマホアプリ「ForestScanner」を開発・リリースした。ForestScannerは、LiDAR(Light Detection and Ranging)スキャナが付いているiPhoneやiPadを木にかざすだけで、樹木の直径を簡単に測定できる無料アプリだ。

詳細は科学ジャーナル「Methods in Ecology and Evolution」でオンライン掲載されている。

では、このアプリの何が画期的なのだろうか。その理由や意義について紹介しよう。

炭素固定という言葉をご存じだろうか。木材・木製品に含まれている炭素(C)は、樹木が吸収した二酸化炭素(CO2)に由来していることから、大気中のCO2を固定しているという概念に基づくものだ。すなわち、樹木の成長=炭素吸収量の推定だともいえる。

また、樹木の直径を計測することは、その樹木から採れる木材量を把握するにおいても、非常に重要なのだ。

それでは、これまでどのように樹木の直径を計測していたのか。

なんと、人力である。

樹木の直径はこれまで専用の巻尺などを使って測られ、人手や時間がかかっていたのだ。林業というのは、非常にレガシーな業界であり、また、海外とは違い樹木が急峻な地形で生育していることから、大量搬出が難しいのが課題となっている。そのため、リモートセンシング技術などによって効率的な林業が図られているものの、なかなか普及は進まず、北欧などに遅れをとっている現状だ。

そんな中での、無料かつ簡便なスマート技術を駆使した研究であるため、非常に画期的だというのだ。さて、研究の内容について触れてみよう。

本研究では、LiDARスキャナが搭載されたiPhoneやiPadを使って、木の直径を素早く簡単に測れるアプリ開発を行った。LiDARとは、レーザー光を使って物体への距離や3D形状を測定する新しい技術である。

このアプリを使用すれば、iPhoneやiPadを木にかざして画面をタップするだけで、その木の直径を知ることができ、測定した直径は端末に自動保存されるため、手作業による記録も必要ない。

  • ForestScannerのスクリーンショット

    ForestScannerのスクリーンショット(出典:森林総研)

また、上図のように、測定した直径はリアルタイムで画⾯上に表示されるため、調査漏れなどのミスを防ぐことができるのだ。

ForestScannerを検証した結果、従来の巻尺による方法と比べて、測定作業にかかる人手や時間を4分の1に削減できた。具体的には、森に生えている直径5cm以上の木(672本)を測定したところ、巻尺の場合には2人(測定者とデータ記録者)で3時間13分かかったのに対し、ForestScannerを使用すると、1人で1時間40分しかかからなかったという。

ForestScannerによる樹木測定の様子

さらに、測定精度についても、ForestScannerと巻尺の誤差は±2cmで、ほぼ同様の値が得られることが明らかとなった。

  • ForestScanner と巻尺で測った⽊の直径の対応関係(出典:森林総研)

    ForestScannerと巻尺で測った木の直径の対応関係(出典:森林総研)

森林総研は今後もマプリィと共同研究を進め、デジタル技術を使ったさらなる森林調査の効率化や自然科学アプリの開発などに取り組んでいく予定だという。