電車やバスなどの乗換案内サービスを手掛けるジョルダンは、MaaS(Mobility as a Service)から始まるスマートシティと都市間連携の実現に向けた取り組みを進めている。同社が強みとする“移動の支援”を軸にして、医療や娯楽などさまざまなサービスと連携したデータを活用し、地域の活性化を目指している。
同社が日本オラクルと共同で2022年1月15日から3月31日まで実施した実証実験では、東京都西新宿エリアでのスマートシティの実現を目指し、さまざまな検証を行った。
例えば、ユーザーに対して、位置情報をもとに西新宿エリアにログインしたかのようなアプリからの入口体験を提供した。また、エリア内でのイベント情報・飲食店情報を提供し、ワンクリックでのルート検索や、AR(拡張現実)を活用した標識表示、センシングによる施設の混雑状況、オンラインでの注文・決済などを検証した。
具体的にどのような実証実験を行い、その検証結果はどうだったのか。同事業を担当したジョルダン戦略企画部マネージャーの岡田円氏、日本オラクルソーシャルデザイン推進本部シニアマネージャーの武波健氏に話を聞いた。
特定地域に特化した情報サービス
今回、実証実験を行った西新宿は新宿新都心(副都心)とも呼ばれ、地上60メートルを超える超高層建物が約40棟密集している日本最大級のオフィス街だ。その一方で、昼間と夜間の人口比率の差も日本最大級となっている。昼間の人口は多いが、夜は人通りが著しく少なくなる。ビジネスマンは多いが、飲食店が密集しておらずエンターテインメント施設も少ないため、夜間や休日の昼間の活気が他地域と比べて弱いといった課題を抱えているという。
岡田氏は「千葉県幕張など例に漏れないが、西新宿といった副都心には“遊び”が少ない。商用市街や飲食店、住宅地などが完全に分離しているので、横断的な行き来が発生しない」と、西新宿エリアの現状を説明した。
ジョルダンは経路・ルート検索アプリ「乗換案内」を開発・提供している。同アプリは、出発地と到着地との間を鉄道・空路・航路・高速バス・路線バスなど公共交通機関を使って移動する最適経路を示してくれる。ダウンロード数は4000万回を突破しており、月間の検索回数は2億3000万回程度だという。
同実証実験では、一般的なルート検索に加えて、スマートシティモード「西新宿モード」という機能をアプリに実装した。同機能では、ルート検索と観光やビジネス、生活、イベントといった地域情報を連携。位置情報を活用し、ユーザーが西新宿エリアに入ると、地域情報から経路検索ができ、マップ上にはおすすめのスポットが表示される。
「地域住民しか知らない観光情報や、穴場・オススメの飲食店などのコアな情報を発信した。一般的ではない観光情報とルート検索がワンクリックでつながるという、まさに時間ロスのないサービスだ」(岡田氏)
他社サービスとの連携もしており、例えば、アプリ上で飲食店の予約をしたり、気になるイベントのチケットを注文・決済したりすることもできる。銀行・ATMや病院、スーパーなど、画像付きで周辺検索ができ、老若男女問わず使いやすいUIとなっている。この西新宿モードは、実証実験期間中約2400名のユーザーに利用された。
街の人々をマッチング
そして、同実証実験で一番の目玉となったのは、地域の人々の交流を促す「マッチング機能」の検証だ。経路検索に、感情や個人の希望、趣味、趣向といった「コト軸」と位置情報を掛け合わせ、さまざまな出会いや発見を促した。日本オラクルのクラウドプラットフォーム「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」を活用し、マッチング機能を同アプリに実装した。
武波氏は「人や目的がポールとなって、そこに共感する人が集まってくる。テクノロジーを活用して人々が助け合うような町を実現したいという思いから、このアプリを開発した」と語った。
今回の実験では、「こんな事業に興味のある方、一緒にやりませんか?」といったビジネス面でのマッチングを図った。事前に募集した会社員や学生、西新宿周辺の住民などを対象に実施。マッチング実施後にインタビュー、アンケートにて感想を収集した。
岡田氏は、「実際にマッチングが発生するのか、どのような要素でマッチングをしたいと思っているかを検証し、必要となる機能の整理や不安に感じる要素の洗出しにつなげた」と、同検証の狙いを語った。
アンケート結果をみてみると、「将来的な可能性を感じた」「西新宿に限らず、他のエリアでも同様の取り組みがあるとおもしろいと思った」といった声が寄せられた。一方、どのようなポイントを改善すると、より良いビジネスマッチングの仕組みになると思うかという問いに対しては、「相手の情報がわかるようになると安心する」「認知度を上げて利用目的と利用者を増やす」などの意見が寄せられたという。
両社は最終的に、「ランニング仲間募集中」といった趣味や、「原宿までタクシーで移動したい」などの移動、「悩み事、話を聞いてほしい」といった相談など、さまざまなマッチング要素をアプリに実装していくことを目指す。
一方で、街の人々でのマッチングは画期的で便利な機能だが、悪用される可能性もあり、安全面での課題が残る。
「個人情報の取扱いなどまだまだ課題があるが、街の監視カメラと連携するなどして安全性を担保していく。“安心安全”をテクノロジーでいかに提供できるのかを模索している最中だ」(武波氏)