東芝は7月12日、橋梁におけるコンクリート床版の健全度をセンサによって解析・可視化する技術を開発し、福岡北九州高速道路公社(福岡高速)にてその効果を実証したと発表。7月6日には、同技術・実証に関する事前説明会が開催された。
日本が抱えるインフラ課題と東芝のアプローチ
日本国内では、高度経済成長期に整備された道路・橋などの多くが建設から50年を迎え、老朽化した社会インフラの割合が急増している。
2012年の法改正により、橋梁やトンネルなどの道路構造物については、5年に1回の近接目視点検が義務化されているが、少子高齢化に起因する土木作業員の人手不足などの問題も顕在化しており、安全かつ効率的なインフラ保全が求められている。
また東芝によると、道路構造物の保全方法についても抜本的な見直しが必要だという。
現在国内では、構造物の使用を長年継続し修繕が必要になったタイミングで大規模工事補修や建て替えを行う「事後保全」が一般的であるが、同社は、小規模修繕をこまめに行う「予防保全」が重要だとしている。
予防保全の場合、道路構造物の長寿命化により大規模工事の回数が削減されるため、人手不足という課題の解決につながるという。また、国土交通省が2018年11月に発表した試算によると、予防保全は事後保全に比べ、コストの削減も期待できるとのことだった。
これを受け東芝は、特に橋梁の予防保全に焦点を当て、外観からは発見が困難なコンクリート床板内部の健全度を解析・可視化する技術を開発。2021年8月、同年10月、および2022年1月に福岡高速1号線・2号線で実証実験を行った。
東芝が開発した健全性解析技術の概要
東芝が発表した技術は、車両が橋梁を走行する際に路面で発生する微弱な波動を利用するという。
福岡高速1号線で行われた実証実験では、床版下面の4m×1mの範囲に18個のセンサを設置し、路面から床版内部を伝わる弾性波のデータを2時間計測したのち、東芝独自のセンサデータ解析技術を用いて弾性波の震源分布を解析。その結果から床版内部の健全度を評価し、色分けによるマッピングを行ったとのことだ。
また、今回作成された健全度マップの妥当性評価として、マップ内の床版下面4か所にて、微小孔を削孔し内視鏡で内部を観測する削孔調査が実施された。
その結果、健全度マップで「やや損傷寄り」とされた箇所では約0.2mmのひび割れが検出され、健全とされた箇所では異常が発見されなかったという。
このことから東芝は、同社の技術による評価は小孔調査の結果と良く一致し、妥当性が実証されたとした。
床版補修の定量的評価にも活用
さらに東芝は、コンクリート床板の健全度解析技術の活用法として、床版補修の評価に関する実証も行ったとしている。
近接目視による点検が行われている場合では、その補修についても目視での評価に終始し、補修効果の定量的評価はできていない傾向にあるという。
福岡高速2号線での実証では、同社が解析した健全度マップにおいて経年劣化による損傷が広く見られた範囲について、床版のひび割れ部分に樹脂を注入する補修を行い、その後補修についての評価が実施された。
その結果、補修後の解析では、補修を行った範囲のほぼ全面で健全度が回復したといい、健全度マップによる補修評価機能が実証された。
2024年度のサービス提供開始へ実証を継続
東芝は今後の展望として、福岡高速との実証を進めたうえで、事業会社である東芝プラントシステムと共に、2024年度に道路事業者向けサービスとしての提供開始を目指すとしている。
また、会見に登壇した東芝の渡部一雄氏は、「この技術は橋梁床版の検査のみに適用が限られるわけではないので、さまざまなコンクリート構造物の内部健全性評価に適用させるため、実証実験を重ねていきたい」と語った。