コロナ禍により働き方が見直され、ニューノーマルな時代を迎えつつある現在。ジェイックの調査では、テレワークと出社どちらもの選択肢を持つ「ハイブリッドワーク」で働きたいと回答した新卒社員は43.6%にも上るという。ハイブリッドワークが推奨される現代において、会社の移転やオフィスの縮小、リフォームを決めた企業も多い。今回は、そんな企業の中から「人と触れ合える」ことに重きを置いたオフィスのリニューアルを牽引したカルビーの難波俊也氏に話を聴いた。
社員コミュニケーションの秘策は「直線をなくす」こと
今回伺ったカルビーのオフィスは、「共感」「協働」「共創」をキーワードに全面リニューアルされたもので、2021年9月6日から業務をスタートしているという。
カルビーは日本企業の中でも先駆けて在宅勤務の導入を始めた企業で、2014年に在宅勤務制度を開始し、2017年には利用日数や場所の制限をなくした「モバイルワーク制度」を導入。新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年7月からは、オフィス勤務者のモバイルワークを原則とするなど、ニューノーマルな働き方「Calbee New Workstyle」を導入しているという。
そして「Calbee New Workstyle」のスタートから1年たった2021年6月に、今後の働き方やオフィスの在り方を検討する「明日の働き方プロジェクト」が立ち上がり、2010年から2021年まで11年間本社として活用してきた丸の内トラストタワー本館の2フロアを1フロアに集約するリニューアルに着手したのだという。
ソロワークや報告型会議などはリモート実施を前提にオフィスをリニューアルし、現在は社員間や顧客との関係構築、教育やディスカッションといったコミュニケーションを通じた価値創造を目指す場所として活用されているという。
「リニューアルしたオフィスは、『直線をなくす』ことで他の場所で業務している人と目線が合いやすくなったり、歩くのにさまざまな場所を通ったり、と自然と人とコミュニケーションを取りやすくなるように設計されています」(難波氏)
実際にオフィス内を歩いてみると、低いテーブルとスタンディングテーブルの高さの差がかなりあったり、あえて作業スペースが無造作に置かれていたり、と難波氏の話にあったように「直線がない」オフィスになっていることが分かる。
また「共感」「協働」「共創」の3つのキーワードを実現するために、オープン性も大切にしており、顧客の個人情報を扱う部署以外は仕切りのない空間となっており、社長などの役員の席も一般社員と同じ並びに設置されている。
「基本的に会議などを行う際の会議室も仕切りが作られていないか、ガラス張りになっていて、外から中の様子が見えるようになっています。周りの社員に聞かれたり見られたりして困る話はしない、というオープン性がよく表れている部分だと思います」(難波氏)
オフィスは畑をイメージ、自然の恵みをもたらす畑がカルビーの原点
直線をなくし、コミュニケーションとオープン性に力を入れた造りのカルビーのオフィス。その構造は、社員の働きやすさに直結する素晴らしいアイデアだ。 しかし、このオフィスには社員の働きやすさのための秘密が隠されている。それは「至るところに会社愛があふれている」という点だ。
まずオフィスに入って初めに目を引かれるのは、カルビーのキャラクターやお菓子たちがさまざまなところに配置されているということだ。 多くの同社の商品を社員がどれだけ大切に思っているかが伝わってくる。
また、会議室にはそれぞれ「じゃがりこ」や「かっぱえびせん」「miino」など、カルビーの代表的なお菓子の名称が付けられており、扉には商品名と柄がデザインされている。 加えて、そのお菓子のイメージに合うような色合いと家具がセレクトされており、その商品愛を存分に感じることができる。
また、リニューアルしたオフィスはキャラクターやお菓子だけでなく、カルビーグループが大切にしてきた「畑」や「自然の恵み」を随所で感じられるデザインになっているのだという。
「新オフィスは『畑』をモチーフとし、コンセプトを『Dig up field~新しいを掘りだそう~』としています。新しいオフィスには、カルビーグループがこれまで大切にしてきた自然の恵みが至る所で感じられ『作物が実る畑のようにアイデアが生まれるオフィスにしたい』という想いがあります」(難波氏)
実際に、オフィス内には畑をイメージして作られた部分も多い。 木材の縦格子が天井まで続くエントランスは、「畑の畝」をイメージしたデザインになっているほか、空撮した畑を表現した植栽「グリーンアート」を壁面に施すなど、畑のぬくもりが感じられるような工夫が凝らされている。
「カルビーでは、新卒の社員も中途入社の社員も入社後、北海道でジャガイモの収穫のサポートをする研修があります。一つひとつのジャガイモに愛を持って育ててくださっている契約農家さんとの出会いは、カルビーで働く者にとって大きな経験になります。自然の恵みをもたらしてくれる畑がわれわれの原点であるという想いがこのオフィスには詰まっていると思います」(難波氏)
目指すは「明日が楽しみになる会社」
ここまで話をしてくださったプロジェクトリーダー・難波氏は、カルビーで営業を担当しているという。 「営業部門の人がオフィスのリニューアルを担当?」と思うかもしれないが、今回のリニューアルプロジェクトはさまざまな部署からの意見を取り入れるため、部署を横断してプロジェクトチームを組んだのだという。
「多くの部署が集まっているプロジェクトだったからこそ、難しかったところもあれば、良かったところもあったと思います。営業として欲しいものは、他の部署にとってはなくてもよいものだったり、他の部署にとって必要なものが何故必要なのかが分からなかったり……。今まで考えたことのなかった『部署によって重点を置いていることが違う』ということがわかったのが個人的には大きな成長でした」(難波氏)
今回のお話を伺って、筆者が1番印象に残ったのは、難波氏がとても楽しそうにオフィスの話をすることだった。 部署横断のプロジェクトであり、自分の通常業務の間を縫ってミーティングを重ねなくてはならなかった今回のプロジェクトで苦労した点などはなかったのだろうか?
「苦労したことはほとんど記憶にありません。もちろん難しいことやうまくいかないことはありましたが、それよりも一生に一度あるか分からない『本社オフィスのリニューアル』のメンバーに自分が入れてもらえたことにずっとわくわくしていました」(難波氏)
最後に、難波氏に今後オフィスをどうしていきたいか、目標を聞いた。
「『明日行くのが楽しみになるオフィス』を実現することです。これは、私が新卒で入社した時からの目標でもあるのですが、せっかくなら一人でも多くの皆さんに楽しく生き生きと働いてもらえるといいなと思っています。現在は、仕事の目的や内容に合わせて、働く場所と時間を選択することができますが、その選択肢の一つとして、オフィスという場はコミュニケーションに特化した場になっていくかもしれません。社内外から人が集まり、コミュニケーションによって新たな価値を創造していける、そんな空間になることを目指しています。」(難波氏)
さまざまなヒット商品を生み出し、お菓子業界のリーディングカンパニーとして名をはせるカルビー。 コンビニエンスストアやスーパーへ買い物に行った時に「この商品見たことないな」「じゃがりこ、新しい味出たんだ」と、カルビーの開発力に驚いたことのある読者も少なくないだろう。 そのアイデアの根源には、自社の商品と自社の社員、そして畑を愛する素敵な想いの詰まったオフィスがあるのかもしれない。