ブラックホールの撮影に史上初めて成功した、とする2019年の国立天文台などの国際研究グループの発表に対し、これを否定する検証結果を別の国内の研究グループが発表した。観測データを独自に解析した。リング状に輝くガスやその中の黒い影は捉えられておらず、逆に、国際グループが捉えなかったガスの噴き出し「ジェット」を検出したとしている。
国際グループは、日本が主導する南米チリのアルマ望遠鏡など、世界6カ所にある計8つの電波望遠鏡を連携させ、仮想的に直径1万キロに匹敵する高性能の望遠鏡「イベント・ホライズン・テレスコープ(事象の地平面の望遠鏡)」を構築。地球から5500万光年離れたおとめ座のM87銀河の中心にある巨大ブラックホールを撮影した。ブラックホールに飲み込まれるガスがリング状に輝き、相対性理論の予言通りになったなどとした。
一方、国内グループは、国際グループが公開しているデータを検証。その結果、得られた画像にリングは見られなかった。巨大ブラックホールの多くに存在し、M87でも観測されてきたジェットの根元付近を捉えたとみている。ブラックホールの中心付近とみられる「コア構造」や、ジェットの発生で生じる「ノット構造」が、明るい点として現れたという。
国内グループは国際グループの手法の問題点として、視野設定が非常に狭く、データに四十数マイクロ秒角の大きさの構造を作りやすいバイアスがあったという。そのバイアスの効果で四十数マイクロ秒角の物があるかのように見えるという望遠鏡の癖を、誤ってリング状の天体像にしてしまったとみている。「われわれは視野を桁違いに広く設定し、バイアスを生じにくい撮像解析をした。有名なジェットを検出するなど従来の観測と矛盾しない。データと撮像結果とが、はるかによく整合している」とした。
国際グループは今年5月、私たちが住む天の川銀河の中心のブラックホールの撮影にも成功したと発表した。国内グループはこれも解析中で、秋にも結果を発表するという。
国内グループの国立天文台の三好真助教は会見で「ブラックホールはあると私たちも思っているが、このデータからあったというのは無理では。リングを撮影するには、参加する望遠鏡を増やすしかない。もちろん私たちは私たちが正しいと思って発表した。が、より多くの研究者がオープンに議論し、どういう場合ならどう間違い、これは間違いでないなどと、1つ1つのことを調べ上げられるとよい」と述べた。
これに対し国際グループは「公開された結果の独立した分析と解釈を歓迎する」とした上で、今回の国内グループに対し「データと方法の誤った理解に基づいており、誤った結論につながるものだ」とコメントしている。
国立天文台は「今回の研究は、複数の研究グループが観測データや解析手法を独立に検討するという、現代科学が歩むべき健全で正常なプロセスの重要性を示した。さらなる再解析や手法の検討、追観測などを通じ、より確からしい知見が得られていくと期待される」としている。
国内グループは国立天文台、理化学研究所、神戸大学で構成。成果は米天体物理学誌「アストロフィジカルジャーナル」6月30日に掲載された。
関連記事 |