京都大学(京大大学院 総合生存学館 SIC有人宇宙学研究センター)と鹿島建設は7月5日、大きく3つの構想を掲げ、月や火星において、衣食住を可能にし、社会システムを構築するために向けた共同研究に着手することで合意したことを、記者会見で発表した。
会見には、京大大学院 総合生存学館の積山薫学館長/教授、京大大学院 総合生存学館 SIC 有人宇宙学研究センターの山敷庸亮センター長/教授、鹿島建設の福田孝晴専務執行役員、鹿島建設社 関西支店 設計部の大野琢也副部長(鹿島建設 技術研究所/京大大学院 総合生存学館 SIC 有人宇宙学研究センター 特任准教授兼任)に加え、山崎直子 元JAXA宇宙飛行士(京大大学院 総合生存学館 特任准教授兼任)も参加した。
2020年代末にはアルテミス計画によって、月面に恒久的な有人拠点が建設される計画だ。このように宇宙での人類の生活が現実味を増すにつれ、月面などの低重力環境がより問題視されるようになってきており、医学界を中心に世界的に人工重力が注目されている。そこで今回、京大と鹿島建設は共同で、世界に先駆け、宇宙開発の核心技術(コアテクノロジー)としての人工重力居住施設を中核に据えたコアバイオーム・コンセプトの共同研究を発表することにしたという。
今回の共同研究で掲げられた、月・火星での生活に向けた3つの構想は以下の通りだ。
- 月・火星での生活基盤となる人工重力居住施設「ルナグラス・マーズグラス」
- 宇宙に縮小生態系を移転するためのコンセプト「コアバイオーム」
- 惑星間を移動する人工重力交通システム「ヘキサトラック」
1つ目の「人工重力居住施設ルナグラス・マーズグラス」だが、これは月面・火星面上での生活基盤となる、低重力に遠心力を加えた合成力で1Gを確保し、地球と同じ重力環境下で生活できるようにする都市だ。
アルテミス計画でも2020年代後半には、月面に恒久的な有人活動拠点が建設されており、また近年は民間人が国際宇宙ステーション(ISS)に滞在するなど、徐々に一般人が宇宙に進出する機会が増えてきている。
人類が宇宙空間や月、火星で生活するようになったとき、研究者たちが重要課題として位置付けているのが低重力だ。現在もISSを用いた低重力の研究などが行われているが、成人の身体の維持にとどまっており、子供の誕生や成長への影響などはまだ具体的な研究はされていない。1G環境下において何億年という時間をかけた進化の果てに誕生した人類は、重力がないと、受精による生命の発生が不可能な可能性すらあるのだ。
また、誕生できても低重力では正常な発育が望めないとも危惧されており、低重力下で成長した場合、地球では自力で立てない身体になってしまう可能性がある。そこで今回、人類の宇宙で生活していくためのコアテクノロジー(核心技術)として提案されたのが、宇宙空間や月面、火星面において、回転による遠心力を利用し、地球環境と同等の擬似的に1G環境を発生させられる「人工重力居住施設」というわけだ。
普段は同施設の1G環境の発生するエリアで暮らし、業務で必要な場合やレジャーなどのときにだけ、月や火星ならではの低重力や宇宙空間の無重力を利用すればいいという。同施設で生活することによって、人類は安心して子供を産み、いつでも地球に帰還できる身体の維持が可能となる。
微小重力環境の宇宙空間での人工重力居住施設は、SF作品のスペースコロニーや宇宙基地などでお馴染みの円筒形やトーラス形をした建造物となるが、今回のポイントは、月面や火星面上の低重力環境で遠心力を加えて合力で1G環境とする建造物である点だ。
ルナグラスやマーズグラスは断面図は二次曲線となる3次元曲面で構成されており、中心軸で回転させることで、月面では遠心力を5/6Gを追加し、火星面では同様に2/3Gを追加し、壁面の辺りで合成力で1Gとなるという仕組みだ。地球では地面に対して垂直に立って暮らしているのはいうまでもないが、ルナグラスやマーズグラスでは、月面や火星面に対して斜めに立って暮らすことになるのが大きな特徴である。