米国政府が、オランダ政府に対し、半導体露光装置メーカーASMLがDUV露光装置を中国に販売することを禁止するよう要請していると米国の経済メディアが7月5日付(米国時間)で報じている。
事情に詳しい関係者の話という形だが、DUV露光装置の中でも先端プロセスに対応可能なArF液浸露光装置(ArFi)の輸出を止める狙いがあるという。
ASMLの最大市場である中国
ASMLは、最先端デバイス製造用のEUV露光装置を唯一提供しているメーカーであり、こちらについてはすでに米国政府の要請に沿ってオランダ政府も中国への輸出許可を出さない状況となっている。そのため、中国最大のファウンドリであるSMICは数年前にEUV露光装置の発注を行っているにも関わらず、いまだに入手出来ていない。ASMLも、出荷できないのは自社の意向ではなく、オランダ政府の許可がおりないためだと明言している。
ArF液浸露光装置は、EUVが登場するまで最先端の微細プロセスを実現する露光装置として世界中の多くの半導体メーカーで活用されてきており、ASMLの広報担当者は、「この議論は新しいものではない。決定は何ら下されておらず、うわさに関してコメントをするつもりはない」と述べているという。実際に米政府は、これまでも同社のEUV以外の露光装置も中国への輸出を禁止するよう要請を出してきたが、WTOの自由貿易に関する国際ルールに違反するような要請にオランダ政府もASMLは応じておらず、EUV以外のすべての露光装置は中国に輸出されてきた。
ASMLにとって中国は重要市場に位置づけられており、2021年の同地域での売上高は27億ユーロ(1ユーロ=140円換算で約3800億円)、2022年は30億ユーロを超すことが見込まれているほか、同社の2022年第1四半期の地域・国別売上高シェアを見ると、韓国29%、台湾22%を抜いて中国は34%と最大市場となっている。
こうしたこともあり、ASMLの中国法人は中国本土に14のセールス・サービスオフィス、11のロジスティクスセンター、2つの研究開発拠点、トレーニングセンター、およびメンテナンスハブを有し、合計1400人ほどを雇用しているが、2022年はさらに中国での多数の半導体工場の建設・立ち上げが期待されていることから、さらに200人以上の新規従業員を採用することを計画している。
日本政府にも露光装置の輸出禁止圧力
また米政府は、日本政府に対しても、中国半導体メーカーに向けた露光装置の輸出をやめさせるよう圧力をかけようとしていると、関係者の話としてBloombergは報じている。日本のArF液浸露光装置メーカーはニコンとなるが、同社の2021年の中国への輸出は4台であったという(ASMLは81台、中Founder Securities調べ)。ニコンは、米政府の要請について情報を持っていないとコメントしているとBloombergは伝えている。
なお、米国の半導体工業会(SIA)やSEMIをはじめとする業界団体は、自由な競争に基づく自由貿易を阻害するようなあらゆる規制に反対の声明をたびたび出しており、米国商務省の中国への輸出規制を強めようとの思惑通りには、米国半導体・装置・材料業界は動いていない。