ネコがマタタビの葉をなめたりかんだりすることで、蚊を遠ざけるマタタビの性質を強め、しかも同時にネコ自身をマタタビにより強く反応させることが分かった、と岩手大学など日英の研究グループが発表した。成果は身近な動物の行動の謎を解き、さらに蚊を避ける薬の開発に役立つ可能性もあるという。

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    ネコはマタタビを見つけると(1)葉をなめたり、(2)かんだり、(3)顔や頭をこすり付けたり、(4)葉の上でゴロゴロと転がったりする。10分程度続いた後は数時間、マタタビに全く興味を示さなくなる(岩手大学提供)

ネコは、なめたりかんだり、顔や頭をこすり付けたり転がったりして、マタタビにじゃれつく。1950年代の研究で、ネコが化学物質「マタタビラクトン」の仲間を嗅ぐためとされた。これに対し研究グループは昨年、ネコが反応する最も強力な物質が「ネペタラクトール」であることを発見。これに蚊を避ける効果があり、じゃれると蚊に刺されにくくなることを示した。

ただ、ネコは肉食でマタタビを食べないのになぜ、葉をなめ、かむのか。研究グループはこの謎の解明を目指して実験を行った。

まず、マタタビを傷つけると、無傷のものに比べ、ネペタラクトールとマタタビラクトン類の総放出量が10倍以上に増えた。無傷の葉では有効成分の8割以上がネペタラクトールなのに、傷ついた葉ではネペタラクトールとマタタビラクトン類の組成比がおよそ半々になった。これらは葉が傷ついたことのストレス応答で、酵素が活性化したためとみられる。

この結果を受け、化学合成したネペタラクトールとマタタビラクトン類を使い、無傷の葉と傷ついた葉の有効成分を再現してネコに与えた。するとネコは、傷ついた葉を再現した方に、より長くじゃれついた。反応が長ければ、それだけ蚊をよける成分が体にこびりつく。また、蚊を使って実験すると、傷ついたマタタビの有効成分の方が、無傷に比べ、少量でも虫よけの即効性に優れていた。

ネコが反応する取っかかりはネペタラクトールでも、じゃれつかれて葉が傷つくとマタタビラクトン類が増え、防虫効果を大きく高めていた。

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    実験結果。マタタビが傷つくと、有効成分のマタタビラクトン類の割合が顕著に増えた。そしてネコは無傷の葉よりも傷ついた葉に長時間、反応した(岩手大学提供)

海外でネコがじゃれつくことで知られる「キャットニップ」も調べた。ネペタラクトールに構造が似た「ネペタラクトン」を放出する植物だ。傷つけると、有効成分の放出量が20倍に増えた。マタタビとは違い組成は変わらず、傷をつけても付けなくても有効成分の99%がネペタラクトンだった。傷ついた葉の中では、有効成分はキャットニップがマタタビの40倍も多かった。しかしそれらの効果をみると、マタタビはキャットニップの40分の1の量でも、傷ついたキャットニップと同程度の時間、ネコが反応した。

ネペタラクトールとマタタビラクトン類を、傷ついたマタタビと同じ割合で混ぜると、効果が大きくなった。ところが、ここでネペタラクトールをネペタラクトンに置き換えてしまうと、大きくならなかった。一連の結果から、マタタビとキャットニップは有効成分の量や組成が違い、ネコへの働き方もやや異なることが分かった。

ネコは、マタタビとキャットニップの蚊をよける成分を最も効果的に利用できるような行動や、有効成分をよく感じられる嗅覚を獲得してきたと考えられる。

研究グループの岩手大学農学部応用生物化学科の宮崎雅雄教授(分子生体機能学)は「ネコがマタタビをなめる、かむ、体をこすり付ける、転がるという、本能として獲得した全ての行為に意味がある。だからこそ遺伝子に組み込まれたのだろうと解釈できる。今後は原因の遺伝子を見つけたい」と述べている。

大学院連合農学研究科後期博士課程1年の上野山怜子氏は「有効成分の量だけでなく質も変化し、ネコにも蚊にも効果があったのは意外な結果。化合物が混ざり合うことで効果が大きく変わることは、他の生物の世界にもあるのかもしれない」とした。

研究グループは岩手大学、名古屋大学、英リバプール大学で構成。成果は米科学誌「アイサイエンス」に6月15日に掲載された。

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    研究結果の概要(岩手大学提供)

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