日本ディープラーニング協会(JDLA)は7月4日、「サントリーグループのデータ人財育成 〜現場社員の成果創出に向けた取り組み〜」と題したウェビナー「人材育成 for DX」を開催した。
同ウェビナーはJDLAが主催する企業向けの人材育成セミナーであり、毎回さまざまな企業のゲストを迎えて各社の取り組みを紹介している。今回のセミナーでは、サントリーホールディングスのデジタル本部 データ戦略部に所属する吉川和宏氏が、現場に成果をもたらす研修プログラムの内容について語った。
サントリーが定義するDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、「デジタル×リアルの顧客体験を通じて、お客様の喜びと輝きを創造すること」だ。数多くの商品を展開する同社ならではのモノづくりの力や、広告やブランドコミュニケーションのノウハウを起点とするコトづくりの力といった強みを基盤として、さらなる価値を創造するためにデジタル技術を活用するのがDXの方針だという。
同社はそのための手法として、顧客とのデジタル接点を作り、データから顧客を理解し、業務プロセスを改善しながら新たな体験を提案するというサイクルを強化している。これによってさらにサントリーファンを増やし、デジタル接点から取得できるデータが増加していく構造だ。
この手法を支えるために、同社では「優れたデジタル人材」「データ・IT基盤」「外部の知との連携」の3点をDXのための基盤として重視しているとのことだ。
吉川氏は、企業の営業部門や生産部門などの事業現場の社員がどのようなデータを利活用できるのかを主軸として、サントリーの具体的なデジタル人材育成の取り組みを紹介した。
同社が掲げるデジタル人材像は「ビジネス現場でデータ活用サイクルを回すことができる人材」とのことだ。課題やデータを活用する目的を設計し、データを収集しながら適切な方法で分析した上で、必要な対策を立案し効果検証まで実施するプロセスを実行できる人材を「現場におけるデータ活用人材」と定義している。
同社では、デジタル人材を育成するための要素を「データを活用する上での心構え」と「分析の幅を広げる武器」の2つに分けているという。
データを活用する上での心構えについては、学んで終了するのではなく自分の業務で実践するためのマインド変革を重視して、研修から実践までを約2カ月間で一気通貫に提供する。e-learningを活用して統計学などの基礎を学んだあとに、データを活用するプロセスや仮説の立案について座学で学ぶ。ここでは日々の業務で実践するためのマインド変革を狙うとのことだ。
業務実践の段階では、目的や仮説を適切に捉えてデータ活用のプロセスを実行できているかを実務上で確認する。受講者同士での意見交換や講師からのフィードバックの機会を設けているそうだ。
研修の主な受講者は、各事業のエグゼクティブ層から選抜された現場の人材だ。これは、受講者が日々の業務に追われてせっかく学んだことを忘れてしまわないようにするための工夫だという。また、メンバー層と、その同じ部署のリーダーがチームを組んで参加する点も同社の研修の特徴だ。
分析の幅を広げる武器については、データ整理からデータ分析への一歩を進められるようになるために、まずはBI(Business Inteligence)の研修から提供する。BIの特徴を捉えて自身の業務で実践し、これまでExcelなどでは十分に達成できなかった分析にも挑戦するという。
分析の幅を広げるための研修としては、1カ月から3カ月程度の研修を行う。データ可視化の重要性を理解しながらBIツールの特徴を理解する段階では、自身がツールを活用するためのイメージを醸成する。続く実務研修ではツールの基礎的な操作方法やデータを用いた演習に取り組み、理解をさらに深めるという。
最終的には研修で学んだ内容を日々の自身の業務の中で実践する。ここでは、講師や研修事務局の人員が受講者の自走化までを伴走しながら支援するとのことだ。実践時には受講者の周囲の各部署を巻き込みながらプロジェクトを進め、より効果的なデータの利活用を促す。
今回のセミナーで吉川氏が紹介したのは、すでに業務の中で意識的にデータを活用している社員に対してより高い成果につなげるための2つの要素だ。これらの研修でデータ活用のスキルが身に付いた社員のさらなるステップアップや、反対に、現在は日々の業務でデータを活用していない人材に対する入門編の研修については別途検討中とのことだ。