スクラッチ開発と比べ開発期間を短縮できるローコード開発

市場動向や働き方が急速に変化する中、そうした変化に企業が対応する上で、ITの果たす役割はますます重要になっている。そして、変化に柔軟かつ迅速、さらに低コストで対応できるシステム開発のアプローチとして、脚光を浴びているのが「ローコード開発」だ。

従来のスクラッチ開発と呼ばれるシステム開発手法では、まずユーザーからの要望に基づいて要件定義を行い、続いて機能設計を行って初めて、コーディングと呼ばれるプログラムの記述を経た後に、さらにテストで問題箇所を修正した上で納品するという手順を踏まねばならない。このため、開発期間が長くかかるとともに、運用開始後の機能追加や修正などにも手間がかかってしまうことが長らく課題となっていた。

対するローコード開発では、あらかじめさまざまな機能が「部品」として用意されており、それらを組み合わせることでシステムをつくり上げていくことができる。このため、コーディング作業はほとんど必要なくなり、開発期間を大幅に削減することが可能となるのだ。

ローコード開発をオフショアで行うメリットとは?

このローコード開発とオフショア開発とを組み合わせることで、さらなる相乗効果を創出するべく、NTTイーアジアとベトナム・ハノイに本社を置くOCG Technology JSC(以下、OCG)が提携し、「ローコード開発支援サービス」を6月1日より提供を開始した。

1996年12月にエヌ・ティ・ティ・ベトナムとして設立され、2020年6月に社名を変更したNTTイーアジアは、東日本電信電話(以下、NTT東日本)の100%子会社として、ベトナム国内を中心に、電気通信事業やICTサービスの企画・開発、外国人就労支援などのビジネスを展開している。

一方のOCGは、NTTイーアジアとベトナム国営の電気通信事業者Vietnam Posts and Telecommunications Groupが2016年に創設した合弁会社であり、NTT東日本グループ内で使用するシステムのオフショア開発を行うというミッションも担っている。

両社が連携して展開するローコード開発支援サービスでは、ローコード開発基盤製品の中でもリーダー的ポジションにある「OutSystems」を採用。OCGがOutSystems社とライセンス契約を締結してローコード基盤を構築するとともに、NTTイーアジアを通じて日本の企業へとサービス提供する。

NTT東日本 デジタルデザイン部ファシリテーション部門長であり、NTTイーアジアの取締役も務める橋本毅政氏は、新サービスについて次のように語る。

「『ローコード』という名前の通りで、われわれが提供するサービスは『ノーコード』ではありません。システム開発にあたっては最低限のコードを記述する必要が生じてきますし、その後の運用保守も必要になります。そうなると、現状日本よりも賃金の安いベトナムで開発したほうがメリットがあるだろうと判断しました。そして、ローコード開発支援サービスでは、プラットフォームとしてOutSystemsを採用することでソフトウェアの開発スピードを大幅に高めるとともに、OCGを通じてベトナムの優秀なソフトウェア技術者によって開発を行うことにより、さらなるコスト削減を実現しています」

  • NTT東日本 デジタルデザイン部ファシリテーション部門長 兼 NTTイーアジア 取締役 橋本毅政氏

  • OCGでベトナム人スタッフが開発を行う様子

ベトナムのエンジニアが実現する質の高い開発とコスト削減

ローコード開発支援サービスの基本的な内容は、社内のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する企業に対し、WebシステムやWebツール、モバイル系のアプリケーションを、ローコード基盤「OutSystems」によりオフショア開発を行うことに加え、開発したシステム・ツールの運用支援や既存システムとの連携のアドバイスを実施するものとなる。

橋本氏は言う。「当サービスを通じて、お客様に『ITの我が事(わがごと)化』を進めていただければと考えています。従来のシステム開発では、企画段階からベンダーに“丸投げ”になってしまいがちです。そうなると、システムの基本構造を理解しないまま開発が行われ、その状態で運用も続くことになります。しかし、これでは本来やりたかったことが反映されにくいうえ、コストもかさんでしまいます。かといって、システムを改修するとなると、さらなる時間とコストがかかるという課題がありました。こうした課題に対し、ローコード開発支援サービスでは、システム開発のコアな部分は内製化を図り、速やかに、コストも抑えて、お客様の思い通りのシステム構築を支援します」

また、同じくNTT東日本とNTTイーアジアのデジタル推進部に携わる浅野尚氏もこう続ける。

「ローコード開発では、根幹部分ではない部分の作業が多く発生しがちです。そこで内製化を図りつつも、コアではないこのボリュームゾーンについては他社、それも勉強熱心な人々が多いベトナムのエンジニアに任せることで、一層の効率化を実現できます」

  • NTTイーアジア デジタル推進部 担当課長 浅野尚氏

浅野氏の言葉を受けて、OCGのCEOを務める近藤俊一氏はこう話す。「最近、日本語を話せるベトナム人エンジニアが増えてきており、コミュニケーションもスムーズになってきていますし、PM(プロジェクトマネジメント)ができる現地スタッフも増えています。当社には現在30人ほどのベトナム人エンジニアが在籍していますが、このサービスのニーズに応えられるようにすることも含め、今年中に60人、来年には150人を目標に体制を強化していく予定です」

  • OCG Technology JSC CEO 近藤俊一氏

前述したように、OCGはNTTイーアジアとベトナム国営の電気通信事業者Vietnam Posts and Telecommunications Groupの合弁会社であるため、ベトナムにおいて信頼が厚く、人材獲得の上でも有利だという。日本と同様、ベトナムでもIT人材の獲得競争が厳しさを増しているが、OCGは優秀な人材を獲得できているとのことだ。

ローコード開発支援サービスのニーズとして、当初はNTTグループ内での比較的小規模なシステム開発を想定しているという。しかしその後は、NTTイーアジアを通じた日本企業のDX推進のニーズに応えるとともに、OCGを通じてベトナム企業をはじめとする東南アジア諸国のDX推進にも貢献していきたいとしている。