減少傾向がしばらく続いていた新型コロナウイルス感染症の新規感染者が、再び全国的に増加傾向をみせている。厚生労働省に対策を助言する専門家組織は6月30日の会合で、オミクロン株の新たな派生型「BA.5」が増加要因になる可能性があるとして、注意を呼びかけた。また、現在の増加傾向が感染拡大の「第7波」の兆しなのか注視する必要があるとしている。新規感染者の増加は世界的な傾向で、世界保健機関(WHO)も警戒している。

厚生労働省の資料によると、6月29日までの1週間に確認された全国の感染者は人口10万人当たり約92人。前週の1.17倍で、約1カ月半ぶりにほとんどの年代で増加に転じた。新規感染者が前週より増えたのは29都府県。東京都は前週比1.37倍で、大都市でおおむね増加している。島根県は出雲市の事業所で大規模クラスターが発生したこともあり、2.92倍で最も顕著だった。

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    新規感染者の対前週増減比(厚生労働省提供)

東京都も6月30日に新型コロナウイルスのモニタリング会議を開催。新規感染者の数が6月29日までの1週間平均で前週比約138%となり、2週続けて増加したことから、独自の警戒レベルの判断基準に照らし、レベルを1段階引き上げ、上から2番目の「感染拡大で警戒が必要」とした。会議メンバーの専門家は「十分に下がりきらないまま増加に転じた。感染が再拡大している」などとコメントしている。

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    東京都の報告日別による新規陽性者の推移(東京都提供)

変異株としては、2021年5月にピークを迎えた第4波はアルファ株が、同年夏の第5波はデルタ株がそれぞれ主流だった。その後オミクロン株が流行した。人への感染に重要な働きをする「スパイクタンパク質」の変異は、オミクロン株はデルタ株の約3倍多く、感染力が強いとされた。派生型は、株が変わるほどの変異ではない「小変異」のものを指す。オミクロン株には現在BA.1からBA.5まである。

厚労省の専門家組織によると、オミクロン株は今年に入りBA.1から派生型のBA.2に置き換わっていたが、新たにBA.4やBA.5が増えている。同組織会合で国立感染症研究所は、感染者に占めるBA.5の割合は7月第1週(6月27日~7月3日)時点で24%になり、第2週には50%を超えるとの推計を示した。

BA.5の詳細はまだ分かっていないが、米国などではワクチン接種や過去の感染で得られた免疫をすり抜けやすく、感染力もBA.2より強い可能性が指摘されている。国立感染症研究所は「(BA.4とBA.5の)ウイルスの特性について、引き続き諸外国の状況や知見を収集、分析するとともに、ゲノムサーベイランスによる監視を続けていくが必要がある」と指摘。専門家組織は「BA.5系統が今後国内の主流になり、感染者の増加要因になる可能性がある」と注意を呼びかけている。

専門家組織は今後「(1)ワクチンの3回目接種と感染で得られた免疫は徐々に減衰する、(2)梅雨明けや7月の連休、夏休みの影響もあり人と人の接触機会が増える、(3)BA.5に置き換わる可能性がある」ことから、感染増も懸念されるとしている。

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    新規感染者数の動向。直近の1週間は北海道を除く全国で前週より増えている (厚生労働省提供)

一方、WHOは6月29日に世界の最新の感染状況を発表した。6月20~26日の1週間に410万件以上の新規感染が報告され、前週比で18%増加した。110カ国で増加傾向にあるという。また、5月27日~6月27日に分析対象になった約14万6000件のウイルスの94%が、オミクロン株だった。

WHOによると、オミクロン株の6月13~19日の分析対象のうちBA.2は25%で、BA.5は43%に達し、BA.4も12%あった。WHOは、この割合は対象地域に偏りがあり世界全体の状況を反していないとしつつ、BA.5の急速な置き換わりを警戒している。米国からの報道によると、米国内では6月下旬の時点で、BA.5とBA.4が新規感染者の原因ウイルスの半数以上に達した。

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    オミクロン株の電子顕微鏡画像。従来型でBA.5ではないが、形状は似ているとみられる(国立感染症研究所提供)

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