日本電信電話(NTT)と北海道大学は6月27日、異なるモード(種類)の信号光間で発生する光の強度差を、低損失かつ広帯域に可変補償する小型光デバイスを実証したことを報告した。
モード多重伝送は多重するモード数に比例して伝送容量を拡張できるため、次世代の大容量光伝送基盤の実現技術の一つとして注目されているが、モード多重光伝送路ではモード間で光の減衰量がわずかに異なり、減衰量の偏差が伝送距離に伴って累積する課題がある。また、光増幅器中ではモード間の増幅効率が異なるため、増幅出力にもモード間の偏差が生じてしまう。
一方で、モード多重伝送路の出力端では複数のモードが混合して出力されるため、入力信号の情報を復調するための電気信号処理が必要となり、信号処理の計算量はモード数と特性偏差に応じて指数関数的に増大する。光伝送路の特性偏差は伝送距離や増幅効率の要求条件によって変化するため、モード多重伝送の実現には、光伝送路におけるモード間特性偏差を可変制御する技術が必要だ。
こうした課題に対して両者は、PLC(Planar Lightwave Circuit:平面光波回路)を活用して、2つのモード中の特定モードに対する減衰量の可変制御と、多モード光増幅器で発生する増幅効率差の広帯域補償を実証した。
今回両者が提案するデバイスは、2台の光分岐結合回路が従属に接続された構造を持ち、光強度の異なる2種類の信号光のうち光強度の高い信号光の50%が、1段目の光分岐回路で主導波路から遅延線導波路に結合する仕組みだ。遅延線導波路に結合した信号光は2段目の光結合回路で主導波路に再結合するが、その結合量は遅延線導波路で受けた遅延時間に応じて変化するため、遅延線導波路の屈折率をヒーターで可変することで特定の信号光の結合量(減衰量)を制御できるのだという。
下図は、1530から1565ナノメートルの波長帯域で2モードの光増幅を行う光増幅器を用いた際の、デバイスの有無による増幅効率差の変化を評価した結果だ。
黒のプロットは提案デバイスを用いない場合の特性を示し、増幅波長帯域の全域で1.5デシベル以上の増幅効率差が発生している。また、増幅効率差は光増幅器の動作条件に応じて最大3デシベルまで増大している。
一方で、赤のプロットは提案デバイスを使用した際の特性を示しており、提案デバイスを用いることによって、増幅効率の波長依存性を劣化させることなくいずれの条件でも増幅効率差をプラスマイナス0.5デシベル以下に低減できている。
NTTは光関連技術や情報処理技術を活用したコミュニケーション基盤として、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を打ち出している。同社によると、今回の研究結果はIOWN構想で掲げる1ペタ超光伝送基盤の実現に寄与する結果なのだという。