プロジェクトを管理するリーダーに求められるものは、人的リソースの確保や予算配分など、多岐にわたる。中でも多くの人の頭を悩ませるのが、プロジェクト完遂までのスケジュール管理だろう。

「どうする? GOする!」のTVCMで知られるタクシーアプリ「GO」。「JapanTaxi」アプリと「MOV」というライバル同士だったタクシー配車アプリを統合するかたちで生まれた同アプリは、プロジェクトの開始からわずか5カ月でリリースに至ったという。超短期間で遂行された大規模なアプリ統合プロジェクトはどのように進められたのか。

6月14日に開催されたセミナー「IT部門のプロジェクト管理 Day 2022 Jun. プロジェクトを成功に導く勘所」には、GOを運営するMobility Technologies(以下、MoT)取締役 開発本部 本部長 惠良和隆氏が登壇。「タクシーアプリ『GO』の開発裏話~超短期大規模アプリ統合から現在まで~」と題し、その道のりを語った。

開始早々、フルリモートを強いられた統合プロジェクト

MoTは2020年4月、2つのタクシーアプリを統合するために、それぞれのアプリを運営していたJapanTaxi社とディー・エヌ・エーのオートモーティブ事業本部主要事業が事業統合し、誕生した企業だ。ライバル同士だった2つのアプリを統合した背景には、公共交通であるタクシー産業を進化させるために、より効率的にアプリ開発を推進したいという両社の想いがあったという。

サービスを進化させるには、高いUXを実現するための機能開発に加え、対応するタクシーの車両数増加やサービス提供エリアの拡充、ユーザーの積極的な獲得も必要になる。そこで、統合により、効率的な開発とサービス展開が行える環境を整えることになったのだ。その指揮を執った惠良氏は「競合他社も存在する中、時間をかけて統合kkアプリを開発する選択はありませんでした」と、当時を振り返る。どれだけ早くリリースできるかが、その後のマーケティング施策にも影響するため、スピード感のある開発が求められた。

さらに同時期、思わぬ事態が発生する。新型コロナウイルス流行に伴う緊急事態宣言の発令により、突然フルリモート体制への移行を余儀なくされたのだ。

「2月に事業統合を発表し、4月に統合。これ自体も短期間で行われた上、フルリモートへの移行も重なったため、チームビルディングに時間をかける余裕のないまま、統合アプリの開発は始まりました」(惠良氏)

超短期間での開発を実現するために定めた「5つの戦略」

フルリモートでスタートした統合アプリの開発はまず、大きな壁にぶち当たった。JapanTaxiアプリとMOV、どちらのアプリも内製開発されたものだったため、システムや仕様について詳細まで言語化された資料が十分にそろっていなかったのだ。そのため、逐一細かな仕様などを確認しながら統合を進めなければならない。スピード感を求められる開発においては厳しい状況だと言わざるを得ない中、惠良氏は開発をいち早く行うため、5つの戦略を立てた。

アプリ統合の目的と目指すべき姿を明確にする

恵良氏がまず必要だと考えたのが、統合の目的と目指すべき姿を明確にすることだ。

統合の目的は、「アプリ化の促進によるタクシー配車サービスの進化」と「効率的な開発とサービス展開」と、明確だった。一方、目指すべき姿はどんなものなのか。これを明らかにするには、統合対象となるアプリの特長を踏まえた議論が必要だった。

JapanTaxiアプリは2011年にスタートしたタクシーアプリ「全国タクシー」が基になっており、「JapanTaxi Wallet」「JapanTaxi BUSINESS」といったさまざまな関連サービスも展開されていた。一方のMOVは2017年に実証実験を始め、翌年サービス開始した「タクベル」が基になっている。AI需要予測による「お客様探索ナビ」や、無線機を使わない既存配車システムとの連携など、タクシー事業の収益性改善や課題解決にも取り組んでいた。

  • JapanTaxiアプリとMOVの概要

「各アプリの全機能を提供すべきなのかどうかが検討の対象となりました。特に、過渡期に作られた機能や利用者の少ない機能、(開発面で)大きな課題が残されている機能をどうするのかについては、社内で議論を重ねました」(惠良氏)

そしてもう一つ、議論しなければならなかった点が、システム全体をどうするのかということだった。タクシー配車アプリはユーザー向けアプリに加え、乗務員向けアプリやタクシー事業者向け管理画面、運営者向けWebアプリなど複雑な仕組みで構成されている。それぞれのバックエンドに決済システムや支払・請求処理、マスターデータ管理など、表に見えていないシステムが紐付いており、「複雑なシステムが2系統存在している状態」だったという。さらに、2つのアプリは統合されたらゴールというわけではなく、その後も機能追加、UX改善は続いていく。

  • タクシーアプリの仕組みのイメージ図

こうしたことを踏まえ、惠良氏は統合アプリの目指すべき姿として以下の5つを設定し、メンバーに共有した。

・重要な機能は継続して提供する ・目的達成に必須ではない保守性の低い機能は思い切って捨てる ・残す機能も必要があれば改善したかたちで残す ・ユーザーアプリだけでなくシステム全体として統合する ・将来的な開発効率や運用効率を見越したシステム構成にする