アザラシは暗い深海で餌の魚を探すため、動かせるタイプのひげを使い、魚が泳いでできる水流を感知していることが分かった。国立極地研究所などの国際研究グループが発表した。暗闇で餌を採るために重要な哺乳類のひげの役割が、初めて明らかになった。

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    立派なひげを持つキタゾウアザラシの子ども=米カリフォルニア州のアニョヌエボ州立公園(安達大輝氏撮影、極地研提供)

ヒトにはないが、ネコやネズミ、アザラシなど多くの哺乳類は、根元に神経と筋肉が集中して動かせるタイプのひげ「洞毛(どうもう)」を持っている。

これまでに、野生ではなく飼育されたアザラシの実験で、洞毛が水流を感知するセンサーとして重要であることが示されていた。洞毛を手がかりに魚を探している可能性が指摘されていたが、自然界で検証されたことがなかった。

そこで研究グループは、野生動物に機器を取り付け生態や環境の情報を記録する「バイオロギング」の手法をアザラシに適用し、洞毛の動きの観察に挑んだ。2015~18年に米カリフォルニア州のアニョヌエボ州立公園で、野生のキタゾウアザラシのメス10頭の頬に小型カメラを装着し、計9時間あまりの映像を得た。メスは外洋の深海で昼夜を問わず餌をよく食べるので、オスよりも、この研究での観察に向いているという。

その結果、アザラシは深海で、中央値9.2秒の周期で洞毛を広げたりすぼめたりしていることが分かった。洞毛を広げて魚を追い、食べる様子がみられた。洞毛を動かす行動は、ネズミが周囲を探索する時にもみられる。アザラシの場合は水中のため周期は長いものの、ネズミのこの行動と似通ったものと考えられる。

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    キタゾウアザラシが魚を探す過程の記録の例。200メートルより深くに達すると、洞毛を頻繁に広げる(極地研提供)

一部の魚は青く発光するが、アザラシが魚を食べるシーンのうち、魚が光った割合は20%ほどにとどまった。アザラシは目と洞毛の両方を使って魚にありつくが、多くのシーンで洞毛だけを使っていたようだ。

こうした様子から研究グループは、キタゾウアザラシは深海で主に洞毛を水流センサーとして使い、魚が動いて生じる水流を感じ、魚を追いかけて食べていると結論づけた。

なお、アザラシの洞毛は太い部分と細い部分を繰り返した独特の形をしており、自分が泳いで生じる水流の影響を除外して周囲の水流を感知できるよう“ノイズキャンセリング”の機能を持つという。

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    左の写真が、洞毛をすぼめた時。中央と右は、洞毛を広げて魚を追っている時。矢印は魚の青い発光(極地研提供)

今後、洞毛の働きについて他の哺乳類でも研究が進めば、動物の行動の理解を深められそうだ。研究グループの米カリフォルニア大学の安達大輝研究員(海洋生物学、研究当時は極地研特任研究員)は「さらにいろいろな哺乳類の洞毛の働きを調べ、比べるなどしていくと大きな研究分野になるだろう。哺乳類が水中に適応していった時の、洞毛の重要性を考えるのも興味深い」と述べている。

研究グループは極地研、東京大学、カリフォルニア大学、英エクセター大学で構成。成果は「米国科学アカデミー紀要」に13日掲載され、極地研などが14日に発表した。